長野市の災害リスクと歴史年表|善光寺地震から令和元年台風まで、水害と地震が繰り返される盆地の現実

著者: 防災DB編集部|最終更新: 2026年4月


長野市では、記録が残る江戸時代以降だけで死者8,600人超の地震、26人が犠牲になった地すべり、全壊1,034棟を出した台風洪水と、繰り返し大規模災害が発生している。「山に囲まれた盆地だから安全」という感覚は、データが否定する。

防災DB(bousaidb.jp)が算出した長野市の総合リスクスコアは53点(リスクレベル:高い)。洪水スコアは100点満点中100点。信濃川(千曲川)と犀川が市内を流れる長野盆地の構造上、一度大雨が来れば最大浸水深20mに達するエリアが広範に広がる。

本記事では、過去の災害記録と防災DBの最新ハザードデータを組み合わせ、長野市で暮らす・働く上で知っておくべきリスクを整理する。


なぜ長野市は水害に弱いのか

長野市は、北アルプスと東信の山々に囲まれた長野盆地に位置する。盆地の底部を信濃川(長野市以北は「千曲川」と呼ばれるが本記事では両名を文脈に応じて使用する)が北流し、西から犀川、北東から浅川が合流する。

この地形が水害脆弱性の根本にある。

盆地内に流れ込んだ水の逃げ場が少ない。千曲川・犀川の本流は流れが緩やかで、上流からの大量の雨水が一気に盆地に集中する。市の西部から北部にかけては「犀川扇状地」「浅川扇状地」「裾花川扇状地」が広がり、扇状地は浸透性が高い反面、表層の砂礫が崩れやすく、大雨時には斜面崩壊を引き起こす素地にもなっている。

防災DBの125mメッシュ解析では、長野市内の信濃川流域で8,979メッシュ(約140km²)が浸水想定区域に含まれ、最大浸水深は20m、平均でも5.63mに達する。犀川流域は3,679メッシュ(約57km²)、最大深20m・平均5.8mとさらに深い。洪水継続時間は最長336時間(14日間)。

つまり、大規模な千曲川・犀川の氾濫が起きた場合、長野市の中心市街地の広い範囲が長期間にわたって水没する可能性がある。


主要災害の詳細記録

1847年(弘化4年)5月8日 ― 善光寺地震

長野市の歴史上、最大の死者を出した災害。

弘化4年5月8日早朝、北信地方を中心に激しい揺れが起きた(推定M7.4)。震源は長野市北西部の虫倉山付近とされる。この地震の直接的な揺れによる被害に加えて、特に壊滅的だったのが二次災害だ。

犀川上流の岩倉山(長野市と信州新町の境界付近)が大規模に崩壊し、犀川を完全に堰き止めた。崩壊土砂は川幅の数倍に及ぶ巨大な天然ダムを形成し、上流側には大きな湖が出現。やがてこの天然ダムが決壊し、大量の水と土砂が一気に下流へ押し流された。

被害規模(NIEDデータ・長野市地域防災計画資料):
- 死者:8,600人
- 全壊:29,633棟

日本の近代以前における水害・土砂災害被害としても指折りの規模であり、長野盆地の集落は壊滅に近い打撃を受けた。善光寺の参拝客も多数犠牲になったとされる。

この教訓から「川岸に住まない」という地域の知恵が長く伝わったが、都市化の進展とともにその記憶は薄れてきた。


1939年(昭和14年)4月16日 ― 融雪洪水

昭和14年春の融雪期、長野市域を大規模洪水が襲った。NIEDデータによると死者19人、床上浸水36棟を記録。融雪と春雨が重なった典型的な複合水害だった。


1941年(昭和16年)7月15日 ― 長沼地震

昭和16年7月15日、長野市北部の長沼付近を震源とする地震(推定M6前後)が発生。死者5人、負傷者18人、全壊29棟・半壊115棟の被害を出した。

長野市北部の低地は地盤が軟弱で、地震動が増幅されやすい特性を持つ。この地震はその脆弱性を示した事例として、長野市の地域防災計画でも参照されている。


1949年(昭和24年)9月21日 ― キティ台風

戦後の復興期に、キティ台風による洪水が長野市を直撃した。死者2人、全壊20棟、半壊2,000棟を記録。NIEDデータでは半壊棟数が複数記録にわたって合計数千棟規模に達しており、広範な被害の深刻さを示している。


1965〜1966年 ― 松代群発地震

1965年(昭和40年)8月から約5年間にわたって続いた松代群発地震は、長野市の災害史の中でも特異な事例だ。地震の回数は1966年4月のピーク時に一日数百回に達し、長野市松代町を中心に広域が揺れ続けた。

NIEDデータでは1965年・1966年の2件として記録されており、負傷者15人・全壊10棟・半壊4棟の被害が確認される。群発地震は直接的な犠牲者こそ少なかったが、地盤の緩みや精神的ストレスを住民に与え続けた。大量のラドンガス噴出など地質的な異常も観測され、科学的調査対象として今も研究が続いている。


1983年(昭和58年)9月27日 ― 台風10号

昭和58年9月、台風10号に伴う豪雨が長野市に集中。NIEDデータでは床上浸水454棟・死者1人を記録。千曲川の水位は急上昇し、長野市北部の豊野地区を中心に大規模浸水が発生した。

1983年以降、1981年・1982年にも連続して200棟超の床上浸水記録があり、1980年代の長野市は水害多発期にあった。


1985年(昭和60年)7月26日 ― 地附山地すべり

長野市の近現代史における最大の犠牲者を出した災害が、この地附山地すべりだ。

昭和60年7月26日早朝、長野市飯綱高原の地附山(ぢづきやま)が突然崩壊した。幅500m・長さ700m・深さ約60mに及ぶ地すべりで、移動土砂量は約360万m³。市街地に向けて猛烈な速度で土砂が流れ下った。

なぜこの規模になったのか:発災前2か月間の総降雨量が449.5mmに達し、平年の約2倍。飽和しきった地盤がついに限界を超えた。

崩壊した土砂は、斜面直下に建つ特別養護老人ホーム「松寿荘」を直撃した。建物が完全に押しつぶされ、多くの入居者が逃げる間もなかった。

被害規模(内閣府防災情報資料・NIEDデータ):
- 死者:26人(多くが松寿荘入居者)
- 負傷者:14人
- 全半壊家屋:60棟

この災害を契機に、日本の土砂災害対策は大幅に強化された。「施設が急傾斜地のそばに建っていないか」という立地審査の重要性が広く認識されるようになった教訓的な事例だ。

防災DBが把握する長野市内の土砂災害ハザード区域は922箇所、土砂災害リスクメッシュは27,451メッシュに上る。市の西部から北西部にかけての山麓地帯には、現在も同様の危険を抱えるエリアが存在する。


2014年(平成26年)11月22日 ― 長野県神城断層地震

平成26年11月22日22時08分、長野市北部から白馬村にかけてM6.7の地震が発生(長野県神城断層地震)。長野市内の被害は全壊4棟・半壊44棟・一部損壊1,413棟に及んだ。

震源は長野盆地西縁断層帯の一部とみられる。この断層帯は市内をほぼ南北に走り、防災DBの断層マスターでは「長野盆地西縁断層帯麻績区間(M6.4、30年発生確率0.995%)」「長野盆地西縁断層帯飯山-千曲区間(M7.2)」として登録されている。

神城断層地震では白馬村で大規模な住宅被害が発生する一方、地震発生直後に近隣住民が自発的に救助活動を行い、多くの命が救われたことでも知られる。「共助」の力を示した事例として防災教育に使われている。


2019年(令和元年)10月12〜13日 ― 台風19号(令和元年東日本台風)

長野市にとって近年最大規模の水害は、2019年の台風19号だ。

台風19号は10月12日夜から13日未明にかけて長野県を通過。1時間降水量・総降水量ともに観測史上最高クラスを記録した地点が続出し、千曲川の水位は次々と計画高水位を超えた。

10月13日午前1時過ぎ、長野市穂保地区で千曲川左岸堤防が約70mにわたって決壊した。1983年以来36年ぶりの千曲川本川破堤だった。同時に浅川も氾濫し、豊野地区・長沼地区に大量の濁流が流れ込んだ。

長野市内の被害(長野市公式資料・長野市災害記録誌):
- 浸水区域:1,541ha(市内)
- 全壊:1,034棟
- 大規模半壊:285棟
- 半壊:360棟
- 一部損壊:292棟
- 死者:2人
- 豊野地区浸水深:100〜400cm

死者が2人にとどまったのは、気象庁の早期警戒情報と長野市の避難指示の判断が一定程度機能した結果だが、住家被害は現代の長野市史上最大だった。

浸水面積1,541haの規模感をイメージするために言えば、長野市の中心部から北方向に約10km延びる広大なエリアが、最大4mの水に沈んだ。1階の天井まで(約2.5m)はもちろん、2階の床上(約3m)まで達したエリアも多かった。


過去の災害年表

以下は長野市における主な被害記録の一覧(NIEDデータに基づく、被害があった記録のみ抜粋)。

発生年 月日 主な名称 種別 死者 全壊 床上浸水
1847 5/8 善光寺地震 地震+土砂 8,600 29,633
1854 12/23 安政東海地震 地震 5 152
1939 4/16 融雪洪水 洪水 19 36
1941 7/15 長沼地震 地震 5 29
1946 8/10 風水害 台風 4
1949 9/21 キティ台風 台風 2 20
1965 8/3 松代群発地震 群発地震 10
1966 4/5 松代群発地震 群発地震 10
1976 10/6 大雨 洪水 13
1980 12/14 大雪 雪害 3
1981 8/22 台風 台風 232
1982 9/10 台風 台風 450
1983 9/27 台風10号 台風 1 2 454
1985 7/26 地附山地すべり 土砂 26 50 2
1992 7/14 豪雨 洪水 5
1995 7/1 豪雨 洪水 2 5
1998 9/16 台風 台風 1
2010 7/16 平成22年7月豪雨 洪水 1 5
2014 11/22 長野県神城断層地震 地震 4
2019 10/12 台風19号(令和元年東日本台風) 台風 2 1,034

※2019年の全壊棟数は長野市公式資料による。NIEDデータは集計方法が異なる場合あり。


洪水・浸水リスク ― 信濃川と犀川の危険性

長野市を流れる主要河川の浸水想定データ(防災DB 125mメッシュ解析・2024年時点):

河川名 浸水メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最長継続時間
信濃川 8,979 20m 5.63m 336時間(14日)
犀川 3,679 20m 5.80m 336時間(14日)
高瀬川 2,091 10m 0.64m 72時間
夜間瀬川 1,307 10m 0.50m 168時間
麻績川 748 20m 4.04m 24時間
裾花川 724 20m 1.33m 168時間
浅川 563 5m 0.72m 336時間

浸水深のイメージ:
- 0.5〜1m:歩行困難。子供や高齢者は流される
- 2m:1階が完全水没
- 3m:1階天井まで
- 5m:2階の床上まで
- 20m:6〜7階建てビルの最上階まで

防災DBのデータが示す最大20mという数値は、千曲川・犀川の大規模決壊が起きた場合の「最悪シナリオ」の浸水深だ。2019年の台風19号では豊野地区で最大4mを記録したが、これが「最大20m」に近づくシナリオが将来起きないとは言えない。

長野市の洪水ハザードマップは長野市公式サイトから確認できる:
長野市洪水ハザードマップ


土砂災害リスク ― 922箇所の警戒区域

長野市内の土砂災害ハザード区域は922箇所。市の西部〜北西部にかけての山岳地帯が特に高リスクで、戸隠・鬼無里・信州新町・中条方面の山麓集落は急傾斜地崩壊・土石流・地すべりの複合リスクを抱える。

1985年の地附山地すべり(死者26人)は都市近郊の丘陵地での発生だった。山岳部だけでなく、市街地に隣接する小高い丘でも土砂災害は起きうる。

土砂災害警戒区域(イエローゾーン)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は長野市公式の土砂災害ハザードマップで確認できる:
長野市土砂災害ハザードマップ


地震リスク ― 糸魚川-静岡構造線と長野盆地西縁断層帯

長野市は複数の活断層の影響圏にある。

防災DBの断層マスターデータで、長野市周辺の主要な活断層を整理する:

断層名 想定M 30年発生確率 備考
糸魚川-静岡構造線断層帯中北部 7.0 22% 最も確率が高い
糸魚川-静岡構造線断層帯中南部 6.8 2.89%
糸魚川-静岡構造線断層帯北部 7.1 1.10%
長野盆地西縁断層帯麻績区間 6.4 0.995% 市内直下
長野盆地西縁断層帯(全体同時) 7.3 〜0% 低確率だが超広域影響

糸魚川-静岡構造線断層帯中北部の30年発生確率22%は、国内の活断層の中でも特に高い部類に入る(全国平均は1〜3%程度)。この断層が動けばM7.0の地震となり、長野市内の揺れは震度6強以上に達する地域が出る可能性がある。

防災DBの地震確率データ(125mメッシュ)では、長野市内の30年以内の震度6弱以上確率の平均は5.97%、最大地点では45.98%に達するメッシュも存在する。平均地盤Vs30(表層地盤S波速度)は518m/sで、日本の平均的な地盤と比べてやや硬質だが、千曲川・犀川の沿岸低地は軟弱地盤が分布し地震動が増幅されやすい。

2014年の神城断層地震(M6.7)、1966年の松代群発地震(M5前後を繰り返し)の記録が示すように、長野盆地周辺は地震活動が活発なエリアだ。


避難施設 ― 311か所の一覧(主要施設抜粋)

長野市内には311か所の避難施設・避難場所が指定されている。以下は代表的な施設の一部:

施設名 住所 種別
オリンピック記念アリーナ 長野市北長池195 避難地
アクアパル千曲 長野市真島町川合1060-1 避難地
アゼィリア飯綱 長野市上ヶ屋2471-79 避難地・避難施設
三陽中学校 長野市高田1607 避難地・避難施設
三輪小学校 長野市三輪8-3-2 避難地・避難施設
七二会小学校 長野市七二会丁220 避難施設・避難地
ひまわり公園一帯 長野市南長野妻科1108-10 避難地
ドリームモータースクール昭和 長野市川中島町原639 避難地
三本柳小学校一帯 長野市三本柳東2-1 避難地

注意:洪水時は浸水想定区域外の施設に避難する必要がある。自宅近くの避難所が浸水区域内にある場合は、より高台にある施設への垂直避難・遠方への水平避難を計画しておくこと。

全避難施設は防災DBで確認できる:防災DB(bousaidb.jp)


今からできる備え

まず確認すること(今すぐ)

  1. 自宅が浸水想定区域に入っているか確認する
  2. 長野市洪水ハザードマップ
  3. 信濃川・犀川の最大浸水深と自宅の位置を照合する

  4. 土砂災害リスクを確認する

  5. 長野市土砂災害ハザードマップ
  6. 警戒区域(イエロー)・特別警戒区域(レッド)の違いを把握する

  7. 最寄りの避難所と避難ルートを確認する

  8. 通常の避難所が浸水区域内にないか確認
  9. 複数のルートを家族で共有する

  10. 防災DBでリスクスコアを確認する

  11. 防災DBでは住所・市区町村別の洪水・土砂・地震リスクを無料で確認できる
  12. 会社・親族の居住地なども合わせて確認しておくと良い

備蓄・準備

  • 水(1人1日3リットル×7日分)・食料(7日分)
  • 非常用持出袋:通帳・印鑑・処方薬・充電器
  • 台風シーズン(6〜10月)前に備蓄を補充する習慣を
  • 長野市の防災情報は「長野市防災メール・まちの安全安心情報」で受け取れる

長野市の公式防災情報


データ出典

データ 出典 取得時点
過去の災害記録(年数・死傷者・建物被害) 防災科学技術研究所(NIED)自然災害事例データベース 2024年時点
総合リスクスコア・洪水浸水深・土砂災害区域数 防災DB(bousaidb.jp)125mメッシュ解析 2024年
活断層データ(断層名・M・30年確率) J-SHIS(防災科学技術研究所)断層データ 2024年
地震確率(震度5弱・6弱以上30年確率) J-SHIS地震動予測地図 2024年
地附山地すべり詳細 内閣府防災情報(case198501)、長野県砂防資料 公開資料
台風19号被害(長野市) 長野市公式災害記録誌・被害概要PDF 2019年
ハザードマップURL 長野市公式ホームページ(危機管理防災課) 2024年確認
避難施設データ 国土数値情報(避難施設)nlftp_p20 2024年時点

本記事のデータは取得時点のものであり、変更されている場合があります。最新の情報は長野市公式サイトおよび防災DBでご確認ください。


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