藤崎町の災害リスクと歴史|岩木川流域に繰り返す水害、洪水スコア100点の津軽平野

青森県南津軽郡藤崎町は、防災DBの統合リスクスコアで87点(極めて高い)を記録する。洪水スコアは100点満点中100点——計算上の最高値だ。岩木川、平川、浅瀬石川など複数の一級河川が交差する津軽平野の低地に位置し、記録に残る1958年以降だけでも38件の災害が地域防災計画に刻まれている。

最も激しかった1975年8月20日の水害では床上浸水342棟・床下浸水252棟。1977年8月5日には床上浸水175棟・床下浸水643棟が記録された。1991年の台風17・18・19号の連続来襲では全壊3棟、半壊149棟、一部損壊598棟にのぼった。台風シーズンになるたびに、この町の低地が水に沈んできた事実を、数十年分のデータが物語る。

人口約1万4,000人の農業の町が、なぜこれほど高いリスクを持つのか。地形的な構造と過去の災害記録から読み解く。


この町の地形と災害リスクの特徴

津軽平野の底部に位置する構造的弱点

藤崎町は岩木山(1,625m)の東麓から続く津軽平野のほぼ中央部に位置する。この平野を複数の河川が縦横に流れ、最終的に岩木川として日本海へと注ぐ。

問題は海抜の低さだ。町域の多くが標高10m以下の沖積低地で形成されており、上流からの洪水はここに集まりやすい構造になっている。岩木川本流に加え、平川・浅瀬石川・十川・旧大蜂川・浪岡川・後長根川など10以上の河川が町域に影響を与える。防災DBの125mメッシュ分析では12の河川による洪水浸水想定が確認されており、複数河川の同時氾濫が最大のシナリオとなる。

防災DBのリスクスコア詳細(2024年時点)

リスク種別 スコア 評価
総合リスク 87 / 100 極めて高い
洪水 100 / 100 最高リスク
津波 100 / 100 最高リスク
高潮 100 / 100 最高リスク
地震 85 / 100 高い
土砂災害 50 / 100 中程度
液状化 60 / 100 中程度

洪水・津波・高潮の3項目が最高値を示している。津波スコアが100点である点は内陸の町として意外に見えるが、藤崎町は岩木川の中流域に位置し、日本海沿岸を震源とする地震が発生した際に津波が河川を遡上して内陸まで到達するリスクを示している。1983年日本海中部地震では青森県沿岸に5〜6mの津波が押し寄せ、県内で17人が犠牲になった。この教訓が、内陸でも「津波スコア最高」という評価に反映されている。


過去の主要災害

水害の町・藤崎——1958年以降38件の記録

藤崎町地域防災計画には1958年以降の災害が38件記録されており、そのほとんどが台風・大雨による洪水被害だ。年間複数回の水害が記録される年もあった。治水工事の進展により近年は件数が減少しているが、リスク構造自体は変わっていない。

1975年8月——同じ月に二度の大水害

同じ月に2回の本格的な浸水被害が発生した。8月6日の水害では床上浸水36棟・床下浸水242棟。そして8月20日の水害はさらに規模が大きく、床上浸水342棟・床下浸水252棟・半壊7棟に達した。1ヶ月以内に2度の大水害という記録は、藤崎町が置かれた地形的な脆弱性を端的に示している。河川の水位が回復しないうちに次の出水が重なるパターンは、流域面積の大きな岩木川系でしばしば起きる現象だ。

1977年8月5日——643棟が床下浸水

床上浸水175棟(二地点合計)、床下浸水643棟(二地点合計)。町内の複数地区で同時多発的に浸水したことがわかる。1970年代は治水整備が現在ほど進んでいない時代で、特に低地地区への影響は甚大だった。

1983年5月26日——日本海中部地震(M7.7)

1983年5月26日11時59分、秋田県沖を震源とするM7.7の巨大地震が発生した。死者104人のうち100人が津波による犠牲で、「日本海に津波はない」という俗説と警報伝達の遅れが被害を拡大させた事例として今も語り継がれる。青森県では県内で17人が犠牲になり、住家全壊447棟・半壊865棟(県全体)の被害が発生した。

藤崎町の記録では「一部損壊88棟」と比較的軽微だったが、それは内陸に位置しているためだ。しかし岩木川の中流域に位置する藤崎町は、河川を遡上してきた津波の影響を受けうる立地にある。防災DBの津波スコア100点は、こうしたシナリオを含む評価だ。

1991年9月28日——台風17・18・19号の連続来襲

「平成3年前線、台風第17、18、19号」として記録される複合災害。台風が相次いで接近するなか、全壊3棟・半壊149棟・一部損壊598棟という大きな被害が記録された。複数台風の連続来襲は青森県が直面してきた特有のパターンで、記録に残る1991年以外にも同様のケースが散見される。

全災害年表

年月日 気象庁名称・種別 主な被害
1958年9月18日 水害 床上126・床下271棟
1960年8月3日 水害 床上149・床下172棟
1963年7月25日 水害 床上38・床下45棟
1965年9月10日 水害 半壊1・一部損壊25棟
1965年9月18日 水害 床下3棟
1967年10月28日 水害 半壊1棟
1968年8月20日 水害 床上1・床下30棟
1969年8月24日 水害 床上33・床下195棟
1970年8月15日 水害 記録あり
1972年7月8日 昭和47年7月豪雨 記録あり
1974年9月9日 水害 床上5・床下88棟
1975年8月6日 水害 床上36・床下242棟
1975年8月20日 水害 床上342・床下252・半壊7棟
1976年10月21日 水害 記録あり
1977年1月 雪害 一部損壊1棟
1977年8月5日 水害 床上175・床下643棟
1981年8月23日 台風15号 床上13・床下39棟
1983年5月26日 日本海中部地震(M7.7) 一部損壊88棟
1991年9月28日 台風17・18・19号 全壊3・半壊149・一部損壊598棟
1995年11月8日 水害 記録あり
1997年5月8日 水害 記録あり
1998年10月18日 台風10号・前線 記録あり
1999年9月25日 台風18号 記録あり
2002年8月11日 水害 床下1棟
2003年9月13日 台風14号 記録あり
2004年8月31日 台風16号 記録あり
2004年9月8日 台風18号 記録あり
2004年9月30日 台風21号・秋雨前線 記録あり

出典: 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース(藤崎町地域防災計画をもとに収録)


洪水リスク:12の河川が交差する危険地帯

防災DBの125mメッシュ解析によれば、藤崎町周辺で洪水浸水想定が確認された河川は12本に及ぶ。

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 最大継続時間
岩木川 7,007 5.0m 336時間(約14日)
平川 3,890 5.0m 168時間(約7日)
浅瀬石川 2,217 5.0m 168時間
十川 1,651 3.0m 336時間(約14日)
旧大蜂川 806 3.0m 168時間
浪岡川 489 3.0m 168時間
旧十川 406 5.0m 168時間
後長根川 298 5.0m 168時間
松野木川 224 3.0m 168時間
土淵川 96 5.0m 168時間
腰巻川 44 0.5m 168時間
飯詰川 15 0.5m 72時間

出典: 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ洪水浸水想定(国土交通省ハザードマップデータをもとに集計、2024年時点)

浸水深のリアルな意味

最大浸水深5mとはどの程度の水位か。

  • 0.5m未満: 膝下程度。徒歩での移動は可能だが困難
  • 1m前後: 腰の高さ。車のエンジンが浸水し、走行不能になる
  • 3m前後: 2階床面まで浸水。1階は完全水没し、生活空間が消滅する
  • 5m前後: 2階の天井近くまで浸水。建物の1・2階機能が失われる

岩木川で最大5m・継続336時間(約14日間)という数値が何を意味するか。一度浸水すると2週間近く水が引かない可能性がある。農業用機械・農産物・施設すべてが長期間水中に置かれるシナリオだ。

なぜ岩木川はここまで危険か

岩木川は青森県最大の一級河川で、流域面積2,540km²を有する。上流に岩木山(1,625m)を擁し、降雨量が多い時期には急激に水位が上昇する。加えて、下流部の勾配が極めて緩やかなため水はけが悪く、浸水が長時間続く傾向がある。

藤崎町はこの岩木川の中流域に位置し、平川・浅瀬石川という大きな支流が合流する地点の下流に当たる。複数の河川から水が集中して流下してくる構造そのものが、洪水リスクを増幅させている。


地震リスク:近傍に複数の活断層

周辺の活断層

防災DBのデータによれば、藤崎町周辺に影響をおよぼしうる活断層は5断層が確認されている。

断層名 想定M 30年発生確率
岩木山南麓断層帯 M6.6 0.85%
青森湾西岸断層帯 M6.8 0.66%
津軽山地西縁断層帯北部北方延長 M6.8 0.06%
津軽山地西縁断層帯北部 M6.4 評価中
津軽山地西縁断層帯南部 M6.6 評価中

出典: 防災DB(bousaidb.jp) 活断層マスタ(地震調査研究推進本部データをもとに集計)

最も注目すべきは岩木山南麓断層帯(M6.6、30年発生確率0.85%)と青森湾西岸断層帯(M6.8、30年発生確率0.66%)だ。岩木山は町のすぐ西に位置しており、この断層が動いた場合の影響は直接的だ。地震調査研究推進本部が「やや高い」と区分する水準に相当する。

地震動の確率

防災DBの125mメッシュ地震データによれば、藤崎町周辺では30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する確率は平均4.17%(最大13.83%)。震度5弱以上では平均57.6%と、過半数の確率で経験しうることが示されている。

地盤の固さを示す平均S波速度(Avs30)は325m/sで、津軽平野の沖積低地としては比較的良好な値だが、液状化スコア60点という評価は、一部の軟弱地盤エリアで液状化リスクが存在することを示している。


土砂災害リスク

防災DBのデータによれば、藤崎町周辺の土砂災害警戒区域・特別警戒区域は66箇所。125mメッシュ分析では478メッシュが土砂災害影響エリアとして特定されている。沖積低地が中心の藤崎町だが、西部の段丘沿いや谷地形部分では土砂崩れのリスクも存在する。


避難施設一覧

藤崎町内には34か所の避難施設が設置されている(2024年時点)。主要な施設は以下のとおり。

施設名 住所
藤崎中央小学校 大字水沼字浅田11
藤崎小学校 大字藤崎字西村井5-1
藤崎中学校 大字藤崎字西豊田90
常盤小学校 大字常盤字三西田23
明徳中学校 大字常盤字一西田21-1
スポーツプラザ藤崎 大字西豊田一丁目1
スポーツプラザときわ 大字常盤字富田19-1
ふれあいずーむ館 大字藤崎字中村井21-1
ふれあい健康センター 大字矢沢字福富四番囲9-1
常盤生涯学習文化会館 大字常盤字三西田35-1
常盤地区コミュニティーセンター 大字常盤字常盤二西田25
榊公民館 大字榊字和田118-3

上記以外にも各地区の老人憩いの家・研修センター等22か所が指定されている。

注意点として、広域避難場所の指定がない(防災DBデータ上0件)。大規模災害時には近隣市町の避難場所も選択肢に入れる必要がある。


今からできる備え

自治体・公式防災情報

  • 藤崎町洪水ハザードマップ(藤崎地区): http://www.town.fujisaki.lg.jp/index.cfm/9,10536,40,html
  • 国土交通省ハザードマップポータルサイト: https://disaportal.gsi.go.jp/
  • 防災DB(125mメッシュ詳細リスク検索): https://bousaidb.jp/

具体的な備えのポイント

岩木川の最大浸水継続時間は336時間(約14日間)。通常推奨される「3日分」の備蓄では対応できない可能性がある。最低7日分、できれば2週間分の食料・水・医薬品の備蓄を目標にしたい。

洪水時には低い建物の1・2階が水没するケースがある。自宅の浸水想定深を事前にハザードマップで確認し、垂直避難(3階以上への移動)が有効か、それとも早期に水平避難(別の高地・避難施設への移動)が必要かを判断しておく必要がある。

岩木川は上流(弘前市・岩木山周辺)の降雨が数時間後に藤崎町周辺の水位上昇に直結する。気象警報・河川情報は早めに確認する習慣が命を守る。


データ出典

データ種別 出典
市区町村リスクスコア 防災DB(bousaidb.jp) ※2024年時点
洪水浸水想定データ 国土交通省東北地方整備局(防災DBが125mメッシュで集計)
活断層データ 地震調査研究推進本部(防災DBが集計)
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース、藤崎町地域防災計画
地震動確率 地震調査研究推進本部(防災DBが集計)
避難施設情報 国土数値情報(nlftp)避難場所データ(防災DBが集計)
1983年日本海中部地震 内閣府防災情報ページ・気象庁資料
ハザードマップURL 藤崎町公式ウェブサイト

本記事のデータは2024年時点の情報に基づいています。最新情報は藤崎町公式サイト・各機関のウェブサイトでご確認ください。

著者: 防災DB編集部 | 防災DB(bousaidb.jp)