岩倉市の災害リスクと年表|木曽川・庄内川に挟まれた「水の街」の過去と備え

著者:防災DB編集部|最終更新:2024年データ基準

愛知県岩倉市は、木曽川と庄内川という2本の大河川に東西を挟まれた低平地に立地する。防災DBが集計した統合リスクスコアは91/100(極めて高い)で、全5項目(洪水・高潮・地震・液状化・土砂災害)のうち4項目でスコア100という、全国屈指の高リスク地域だ。過去133年間の記録には93件の災害事例が残されており、なかには明治24年(1891年)の濃尾地震で全壊600棟超、昭和34年(1959年)の伊勢湾台風で床下浸水1,150棟という壊滅的な被害も含まれる。

この記事では、防災DB(bousaidb.jp)の125mメッシュ解析データと公的被害記録をもとに、岩倉市のリスク構造と備えのポイントを解説する。


岩倉市の災害リスクプロファイル

リスク種別 スコア(0-100) 最大想定値 評価
洪水 100 最大浸水深 5m超(木曽川・庄内川) 極めて高い
高潮・河川高潮複合 100 極めて高い
地震 100 震度6弱以上30年確率 最大73.4% 極めて高い
液状化 60 中程度
土砂災害 50 ハザード区域 9箇所 中程度
統合スコア 91 極めて高い

出典:防災DB 125mメッシュ解析(2024年データ)、地震は地震調査研究推進本部(NIED)確率論的地震動予測地図2024年版

スコア100が並ぶ洪水・高潮・地震の3項目は、この街の立地そのものが原因だ。順に見ていこう。


なぜ岩倉市は洪水に弱いのか

岩倉市は、木曽川(西側)と庄内川(東側)という2本の大河川に挟まれた沖積低地に位置する。市街地の標高は海抜3〜7m程度と低く、周辺の河川堤防(高さ6〜8m)の方が地面より高い「天井川」状態になっている箇所もある。これは「一度堤防が決壊すると、水が自然に引かない」という危険な地形的条件を意味する。

防災DBの125mメッシュ解析によると、岩倉市域に影響する主要河川と想定浸水リスクは以下のとおりだ。

河川名 市内影響メッシュ数 最大想定浸水深 平均浸水深 最長浸水継続時間
木曽川 7,361メッシュ 5m超 0.98m 336時間(14日)
庄内川 1,714メッシュ 5m超 2.11m 336時間(14日)
八田川 216メッシュ 3m 0.36m 72時間
矢田川 28メッシュ 5m超 3.0m 336時間

出典:防災DB 125mメッシュ洪水浸水想定データ(国土交通省ハザードマップポータル連携)

浸水深5mとは2階の床上1〜1.5mに達する水位だ。2階への垂直避難では命が守れない規模であり、早期避難が必須となる。木曽川の影響メッシュが7,361と突出して多いことは、市内の大部分が木曽川氾濫の浸水想定区域に含まれることを示している。

浸水深の目安:
- 0.5m未満:膝下。歩行は困難だが、1階で待機可能
- 0.5〜1m:床上浸水。家財・家電に深刻な被害
- 1〜3m:1階天井まで。2階への垂直避難が必要
- 3〜5m:2階床上まで達する。建物倒壊リスクも上昇
- 5m超:2階居室まで浸水。屋内待機は生命の危険


岩倉市の主要災害年表

明治24年(1891年)濃尾地震 — 岩倉史上最大の地震被害

1891年10月28日午前6時38分、現在の岐阜県本巣市根尾谷を震源とするM8.0の直下型地震が発生した。日本の陸域地震として観測史上最大規模のこの地震は、岩倉市(当時の丹羽郡域)に壊滅的な打撃を与えた。

NIEDの被害記録によれば、当時の岩倉地区で確認された被害は以下のとおり(地区別の複数記録の合算):

  • 死者:計49名(最大記録では1地区で36名)
  • 負傷者:計148名
  • 全壊:計1,266棟(最大1地区で618棟)
  • 半壊:計389棟

震源から直線距離で約50kmという近距離に加え、軟弱な沖積地盤が強い揺れを増幅した。地表では根尾谷断層に沿って最大8mの垂直変位が生じたことが記録されている。

この地震は「濃尾地震」の名で防災教育に広く使われているが、岩倉市内での記憶は薄い。しかし地盤条件は当時から変わっておらず、同規模の地震が発生した場合の揺れの大きさは現代でも変わらない点は見逃せない。

昭和34年(1959年)伊勢湾台風 — 岩倉を飲み込んだ高潮

1959年9月26日、台風15号(伊勢湾台風)が上陸。中心気圧929hPa、最大瞬間風速79m/sという記録的な強さで愛知・三重を直撃した。伊勢湾岸では高潮が最大3.89mに達し、木曽川・庄内川をさかのぼった濁流が岩倉市域に流入した。

岩倉市内の被害:
- 死者:2名
- 全壊:77棟
- 半壊:109棟
- 床下浸水:1,150棟

この台風を契機に、木曽川・庄内川の堤防強化と排水機場整備が加速した。

昭和49年(1974年)7月豪雨 — 記録的な床下浸水2,000棟

1974年7月下旬の集中豪雨では、市内全域で深刻な浸水が発生した。

  • 床上浸水:21棟
  • 床下浸水:2,000棟

岩倉市の全世帯の大部分が影響を受けた規模であり、岩倉市地域防災計画に重要な教訓として記録されている。

昭和51年(1976年)51.9集中豪雨

台風17号に伴う集中豪雨。
- 床上浸水:10棟
- 床下浸水:393棟

平成12年(2000年)東海豪雨 — 平成最大の岩倉水害

2000年9月11〜12日、愛知県を中心に記録的な大雨が降り続いた(東海豪雨)。名古屋市南部では72時間雨量567mmという観測史上最大値を記録し、岩倉市も甚大な浸水被害を受けた。

  • 床上浸水:106棟
  • 床下浸水:391棟

岩倉市はこの災害を受けて、令和5年4月に「内水・洪水ハザードマップ(想定最大規模降雨版)」を更新・配布している。マップには東海豪雨実績浸水区域も掲載されており、過去最大規模の浸水域が現在も参照できる。

平成20年(2008年)8月末豪雨

  • 床上浸水:4棟
  • 床下浸水:95棟

平成20年8月末豪雨による被害。この豪雨は愛知県西部を中心に広域的な浸水被害をもたらした。

令和2年(2020年)7月豪雨

令和2年7月豪雨(九州中心)の影響が愛知県にも及んだ。岩倉市の被害は軽微(床下浸水2棟)だったが、全国的な気候変動による豪雨激甚化の傾向を受け、警戒水位の見直しが進んでいる。


岩倉市 災害年表一覧

主要災害名 死者 床上浸水 床下浸水 全壊
1498 9 明応地震
1586 1 天正地震
1707 10 宝永地震
1791 不明(洪水) 14棟
1837 不明(洪水) 93棟
1854 12 安政地震
1891 10 濃尾地震 49名 1,266棟
1934 9 室戸台風
1944 12 東南海地震
1945 1 三河地震
1946 12 南海地震
1959 9 伊勢湾台風 2名 1,150棟 77棟
1974 7 集中豪雨 21棟 2,000棟
1976 9 51.9集中豪雨 10棟 393棟
2000 9 東海豪雨 106棟 391棟
2008 8 8月末豪雨 4棟 95棟
2020 7 令和2年7月豪雨 2棟

「—」は記録なし。複数地区の記録がある場合は合算値を掲載。出典:NIED自然災害データベース・岩倉市地域防災計画


地震リスク:震度6弱以上の確率が最大73%

防災DBの地震確率データ(地震調査研究推進本部 確率論的地震動予測地図 2024年版)によると、岩倉市の地震リスクは以下のとおりだ。

指標 市域平均 市域最大
震度6弱以上(30年確率) 52.3% 73.4%
震度5弱以上(30年確率) 91.8% 97.1%
表層地盤S波速度(Vs30) 234.8m/s

30年以内に震度6弱以上が来る確率52%超は「太平洋側地震ベルト」の中でも特に高い水準だ。市内の一部では最大73%という地点も存在する。

Vs30(地盤の固さの指標)の平均234.8m/sは、軟弱地盤の目安となる200m/sをやや上回るが、岩倉市の沖積低地は液状化リスク(スコア60)と合わせて考えると、地震時の地盤液状化にも十分な注意が必要だ。

影響範囲内の主な活断層

防災DB活断層データベースによると、岩倉市域に影響を及ぼす活断層として以下が確認されている。

断層名 想定M 30年発生確率
木曽山脈西縁断層帯主部北部 6.9 低い(ほぼ0%)
伊勢湾断層帯主部北部 6.7 低い(ほぼ0%)
伊勢湾断層帯主部南部 6.4 低い(ほぼ0%)
伊勢原断層 6.6 低い(ほぼ0%)

これらの断層の30年発生確率は「低い」とされているが、確率が低いことは「起きない」ではない。また、濃尾地震の震源となった根尾谷断層帯(岐阜県)は岩倉市から約50km北西にあり、今後の動向に継続的な注意が必要だ。岩倉市の高い震度確率は、濃尾地震の震源断層帯だけでなく、南海トラフ巨大地震のリスクも含めた複合評価によるものだ。


高潮・伊勢湾リスク

岩倉市は海岸から直線距離で約35〜40kmの内陸に位置するが、木曽川・庄内川は伊勢湾に直接注いでいる。1959年の伊勢湾台風では、高潮が河川を遡上して内陸部まで浸水させた実績がある。防災DBの高潮スコアが100を示しているのは、このような伊勢湾の台風高潮が河川遡上を通じて市内に影響を及ぼすリスクを反映したものと考えられる。

気候変動による台風の強大化が進む中、伊勢湾台風級の台風が再来した場合の被害は、現代の堤防強化によって一定程度緩和されているものの、過去最大規模の浸水リスクは消えていない点に注意が必要だ。


岩倉市の避難場所一覧

岩倉市には40箇所の避難場所(広域避難場所8箇所を含む)が整備されている。

広域避難場所(8箇所)

施設名 住所
五条川小学校(校舎) 岩倉市神野町郷浦18
南部中学校(校舎) 岩倉市曽野町江毛1
岩倉中学校(校舎) 岩倉市西市町竹之宮24
岩倉北小学校(校舎) 岩倉市本町南新溝廻間2
岩倉南小学校(校舎) 岩倉市大地町小森93-1
岩倉東小学校(校舎) 岩倉市東町掛目1
岩倉高校(体育館) 岩倉市北島町川田700
曽野小学校(校舎) 岩倉市曽野町井森1

出典:防災DB避難場所データベース(国土交通省NLFTPデータ連携)

重要: 洪水ハザードマップでは、浸水想定区域内の施設は洪水時の指定避難所から外れる場合がある。岩倉市の洪水ハザードマップ(岩倉市公式HP)で、自宅から最寄りの「洪水時指定避難所」を必ず事前に確認しておくこと。


今からできる備え

1. ハザードマップで自宅のリスクを確認する

岩倉市は2023年4月に想定最大規模降雨版の洪水・内水ハザードマップを更新した。日本語・英語・ポルトガル語版が用意されており、東海豪雨の実績浸水データも収録されている。

  • 岩倉市 内水・洪水ハザードマップ:https://www.city.iwakura.aichi.jp/0000000273.html
  • 岩倉市 地震防災ガイドブック:https://www.city.iwakura.aichi.jp/0000001989.html
  • 防災DB 岩倉市リスク詳細bousaidb.jpで「岩倉市」と入力

2. 洪水は「早期避難」が命を守る

浸水深5mを想定すると、2階への垂直避難では不十分だ。「避難指示」が発令される前に自主的に避難を開始する「早期避難」の行動計画を家族で話し合っておきたい。特に要支援者(高齢者・障がい者・乳幼児)のいる世帯は、避難開始の判断を早めることが重要だ。

3. 7日分の備蓄を確保する

洪水時の浸水継続時間は最大336時間(14日間)が想定されている。最低でも7日分(できれば14日分)の食料・水・医薬品の備蓄が推奨される。

4. 地震への備えを並行して進める

統計的に、岩倉市は30年以内に52%以上の確率で震度6弱以上の揺れに見舞われる。南海トラフ巨大地震の発生確率(30年内70〜80%)も踏まえると、家具固定・耐震診断・防災リュックの準備は今すぐ実施すべき備えだ。


データ出典

出典 説明
防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析、統合リスクスコア、活断層データ
NIED自然災害データベース 岩倉市の過去被害記録(1498〜2020年)
岩倉市地域防災計画(最新版) 岩倉市内の被害詳細・避難場所情報
岩倉市公式HP(ハザードマップ) https://www.city.iwakura.aichi.jp/0000000273.html
地震調査研究推進本部(NIED) 確率論的地震動予測地図 2024年版
国土交通省 NLFTPデータ 避難場所・施設データ
気象庁 伊勢湾台風・東海豪雨の災害記録
内閣府防災情報(濃尾地震報告書) 濃尾地震の全国被害記録

本記事の数値データは2024年時点の防災DBデータ・公的資料に基づいています。最新のリスク情報・避難場所については、岩倉市公式HPおよび防災DBをご確認ください。防災DB編集部への情報提供・誤り指摘はサイト内お問い合わせフォームにてお待ちしています。