愛知県東海市の災害リスクと歴史的被害:伊勢湾岸が抱える「五重の脅威」

愛知県東海市は、伊勢湾に面した沿岸低地に広がる工業都市だ。人口約11万人を擁するこの市は、洪水・津波・高潮・地震・液状化という複数の災害リスクが重なり合う「五重の脅威」地帯にある。防災DB(bousaidb.jp)の統合リスクスコアは89/100(極めて高い)を記録し、洪水・津波・高潮・地震の各スコアはいずれも満点の100を示す。2000年9月に発生した「東海豪雨」では市内だけで床上浸水550棟・床下浸水563棟の被害が出た。この記録は、東海市が繰り返し直面してきた洪水災害の深刻さを端的に示している。


この街の地形が生み出す複合リスク

東海市はなぜこれほど多くの災害リスクを抱えるのか。答えは地形にある。

市の東側は伊勢湾の海岸線に接し、西側から北側にかけては天白川・阿久比川などの河川が流れ下る低平地が広がる。標高は多くの地点で海抜2〜5メートル程度にとどまり、かつては干拓・埋め立てによって農地や工業用地に転用された土地が今日の市街地を形成している。こうした成り立ちの土地は、洪水に対してはほとんど逃げ場がなく、地震時には液状化を起こしやすい性質を持つ。

防災DBの125mメッシュ解析によれば、東海市域内のメッシュにおける震度6弱以上の30年発生確率は平均60.9%、最大で77.5%に達する。日本全国でも最も地震リスクが高い地帯の一つだ。これは南海トラフ巨大地震の発生が繰り返し指摘されているエリアであることと無関係ではない。

土砂災害警戒区域に相当するメッシュは市内に2,907区画確認されており、丘陵地の縁辺部に立地する住宅地では土砂崩れへの注意も必要だ。ただし市全体の地形的特徴は平坦な低地が主体であり、最大の脅威は洪水・津波・高潮の「水災害」にある。


繰り返した洪水被害:1979年から現在まで

東海市の防災計画附属資料(NIED防災科研データベース収録)には、1979年以降だけでも20件超の浸水被害が記録されている。

2000年9月11日 東海豪雨が最も深刻だった。停滞前線と台風14・15・17号が複合した気象現象が1時間に114ミリという記録的豪雨をもたらし、東海市だけで床上浸水550棟・床下浸水563棟の被害が発生。東海地方全体では死者10人、浸水面積19平方キロメートル、経済損失2700億円超という「1959年伊勢湾台風以来の大水害」と評された(内閣府防災情報)。

この「伊勢湾台風以来」という言葉が示すように、東海市は戦後最大の台風災害として知られる1959年の伊勢湾台風でも甚大な被害を受けた歴史を持つ。低平地の海岸沿いという立地が、高潮による被害を繰り返し増幅してきたのだ。

その後も水害は続く。

年月 災害名 床上浸水 床下浸水
1983年9月 台風第10号等 40棟 248棟
1984年7月 集中豪雨 40棟 76棟
1987年9月 豪雨 22棟 126棟
1990年9月 台風第19号 10棟 31棟
1991年9月 台風第17〜19号 7棟 101棟
1994年9月 集中豪雨 9棟 67棟
1999年9月 台風第16号 1棟 13棟
2000年9月 東海豪雨 550棟 563棟
2004年10月 台風第22号 3棟

(出典:東海市地域防災計画附属資料、NIED自然災害データベース)

約40年間で毎年のように床上・床下浸水が発生している事実は、この街が構造的に水害と向き合ってきた証拠だ。


洪水浸水リスク:天白川と阿久比川が最大の脅威

防災DBの洪水ハザードデータを125mメッシュで解析すると、東海市では9本の河川が洪水浸水想定区域を形成していることがわかる。

河川名 浸水影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深
天白川 1,207区画 5.0m 1.27m
矢田川 479区画 3.0m 0.5m
庄内川 361区画 5.0m 0.57m
木曽川 258区画 3.0m 2.22m
阿久比川 238区画 5.0m 2.72m
猿渡川 52区画 3.0m 0.87m
前川 24区画 3.0m 2.13m
矢作川 18区画 0.5m 0.32m
香流川 16区画 0.5m 0.5m

(出典:防災DB 125mメッシュ洪水浸水解析、2024年)

影響範囲が最も広いのは天白川で、1,207区画・最大浸水深5mに達する。5mという浸水深は2階床上まで水が届く深さだ。平均浸水深が特に高いのは阿久比川(2.72m)と木曽川(2.22m)で、これらの河川沿いでは1階が完全に水没するリスクがある。

浸水深の目安:
- 0.5m: 大人の膝〜腰まで(歩行困難)
- 1.0m: 大人の胸まで(自力脱出は危険)
- 3.0m: 2階床面まで(1階は完全水没)
- 5.0m: 2階天井まで(2階も機能しない)

浸水継続時間は天白川・矢田川・庄内川などで最大336時間(14日間)のデータがあり、短期間で引かない長期浸水が想定される。地下室やピットへの浸入による電気設備の損傷、衛生環境の悪化なども懸念される。


地震リスク:南海トラフと三つの歴史的大地震

東海市の地震リスクは現在も高く、「震度6弱以上の30年確率が平均60.9%」という数値は日本全国の中でも突出している。この高確率の背景には、南海トラフ地震のリスクがある。

過去には、この地域で以下の巨大地震が発生している(NIEDデータベース・東海市防災計画収録):

1891年 濃尾地震(M8.0)
日本最大級の内陸地震。東海・近畿・関東にわたる広域で甚大な被害をもたらし、東海市域でも強い揺れを記録した。

1944年 東南海地震(M7.9)
紀伊半島沖を震源とし、東海市など愛知県沿岸部に津波と地震動の複合被害をもたらした。戦時中であったため記録が限られているが、市内への影響は確認されている。

1945年 三河地震(M6.8)
矢作川西岸の深溝断層を震源とする直下型地震。愛知県南部で壊滅的な被害が発生し、東海市に近い碧南・高浜などでも甚大な被害が記録された。

1946年 南海地震(M8.0)
翌年に南海地震が発生し、伊勢湾沿岸に津波が到達。東海市はこの2年間で東南海・南海という二連続の巨大地震に見舞われた。

1960年 チリ地震津波
南米・チリで発生した地震の津波が太平洋を横断して伊勢湾に到達し、東海市沿岸に影響が記録されている。

現在、政府は南海トラフ巨大地震(M8〜9クラス)が今後30年以内に発生する確率を70〜80%と推定している。東海市は伊勢湾奥部に位置し、津波の波高増幅が懸念される地形条件にある。

近隣の活断層としては、名古屋市付近断層(M6.6、30年確率0.34%)伊勢湾断層帯主部(M6.4〜6.7)が地震本部により評価されている。これらの内陸断層による直下型地震も、南海トラフとは独立したリスクとして存在する。

地盤のS波速度(AVS30)の市内平均は270.8m/sで、軟弱地盤の指標とされる200m/s以下のメッシュも一定数存在する。軟弱地盤は地震動を増幅させ、液状化リスクを高める。防災DBの液状化スコアは40/100で、沿岸の埋立地・旧干拓地では特に注意が必要だ。


津波・高潮リスク:伊勢湾が増幅装置になる

東海市の伊勢湾沿岸部は、津波・高潮の複合リスクを抱える。防災DBのコースタルリスクデータによると、津波・高潮の影響を受けるメッシュは7,840区画に達し、最大浸水深はいずれも5mが想定されている。

伊勢湾は湾の開口部が南に向いており、外洋からの波が湾奥に向かって収束・増幅しやすい形状を持つ。この「漏斗効果」が1959年の伊勢湾台風で機能し、愛知・三重沿岸で5,000人超の死者を出す大惨事を引き起こした歴史がある。同様のメカニズムは南海トラフ地震による津波にも当てはまる。

東海市は津波災害警戒区域の指定を受けており、市公式サイトでは津波ハザードマップが公開されている(東海市津波災害警戒区域)。沿岸部・低地部では「標高+避難先の高さ」を事前に把握しておくことが不可欠だ。


土砂災害リスク

東海市は平坦な低地が主体だが、市の南西部から加木屋周辺にかけての丘陵縁辺部には土砂災害警戒区域が存在する。防災DBの分析では、市内の土砂災害リスクメッシュは2,907区画。リスクスコア50/100(中程度)は、丘陵地に居住する市民にとっては無視できない水準だ。

NIEDデータベースに収録された土砂災害の実績件数は限られているが、豪雨時の斜面崩壊には注意が必要な地域が市内に点在する。


避難場所一覧:東海市の191か所

東海市内には避難所・避難場所が合計191か所指定されており、うち33か所が広域避難場所に指定されている。

主な広域避難場所・避難所(一部)

施設名 住所 種別
三ッ池公園 加木屋町栗見坂3-1 広域避難場所
中ノ池公園 中ノ池六丁目1-1 広域避難場所
元浜公園 元浜町64-2 広域避難場所
大池公園 中央町三丁目1 広域避難場所
上野台公園 富木島町山田7-1 広域避難場所
名和小学校 名和町山東10 避難所・広域避難場所・一時避難場所
名和中学校 名和町中首羅1-1 避難所・広域避難場所
三ツ池小学校 加木屋町鎌吉良根9 避難所・広域避難場所
上野中学校 名和町奥平戸28 避難所・広域避難場所
加木屋中学校 加木屋町西御嶽18-1 避難所・広域避難場所
加木屋小学校 加木屋町編笠9 避難所・広域避難場所
富木島中学校 富木島町向イ27 避難所・広域避難場所
大田小学校 大田町細田23 避難所・広域避難場所
平洲中学校 富貴ノ台五丁目181 避難所・広域避難場所

(出典:国土数値情報 避難場所データ、防災DBデータベース)

ただし、洪水・津波時には低地の避難所が機能しなくなる場合がある。東海市では、水害時と地震時で避難先が異なるケースがあるため、事前に自分の住所に応じた適切な避難先を確認しておくことが重要だ。

東海市公式ハザードマップで自宅周辺のリスクを確認できる:
東海市ハザードマップ(風水害・地震編)


今からできる備え

1. ハザードマップで自宅のリスクを確認する
東海市が公開するハザードマップで、洪水・津波・高潮・土砂災害の各リスクを住所別に確認できる。

2. 避難経路を事前に歩いて確認する
洪水時は道路が冠水するため、浸水が始まる前の早期避難が原則。夜間・雨天時でも迷わない経路を日中に把握しておく。

3. 備蓄の基本を整える
東海豪雨では浸水が長期化した地域もある。食料・水・薬の7日分備蓄を目安に準備する。水は1人1日3リットルが目安。

4. 避難情報の受信手段を複数確保する
東海市のメール配信サービス、ヤフー防災速報、NHKのサイレン放送など、複数の手段で情報を受け取れるよう設定しておく。

5. 南海トラフ地震への備え
地震直後は3〜5分で津波が到達する可能性がある。「揺れたらすぐ高台へ」のルールを家族全員で共有しておく。


データ出典

データ 出典 備考
統合リスクスコア・各ハザードスコア 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析、2024年版
洪水浸水想定区域 国土交通省 洪水浸水想定区域データ(防災DBで加工)
津波・高潮浸水想定 国土交通省・愛知県(防災DBで加工)
地震動確率 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版(防災DBで加工)
土砂災害警戒区域 国土交通省 土砂災害警戒区域等データ(防災DBで加工)
過去の災害事例 防災科学技術研究所 自然災害データベース(NIED)
避難場所データ 国土数値情報 避難施設データ(防災DBで整備)
2000年東海豪雨の詳細 内閣府防災情報、気象庁、庄内川河川事務所
自治体防災情報 東海市公式ウェブサイト
断層情報 地震調査研究推進本部 主要活断層帯の長期評価(防災DBで加工)

本記事は防災DB編集部が公的データをもとに作成しました。データの時点・精度については各出典をご確認ください。地域の最新情報は東海市公式ウェブサイトおよびハザードマップをご参照ください。

著者: 防災DB編集部
最終更新: 2026年4月
カテゴリ: 市区町村別リスク解説