愛知県江南市の災害リスクと歴史年表|木曽川氾濫・伊勢湾台風・濃尾地震の記録

愛知県江南市は、濃尾平野の北部を流れる木曽川のほとりに広がる低平地の街です。防災DBの統合リスクスコアは89点(極めて高い)——洪水・地震・高潮の3リスクがいずれも最高スコアを記録しており、愛知県内でも有数の複合災害リスクを抱えた自治体です。

1959年の伊勢湾台風では死者7人・全壊265棟・半壊285棟。2000年の東海豪雨では床上浸水46棟・床下浸水415棟。そして木曽川破堤時には市内の広範囲が最大20mを超える浸水に見舞われる可能性があります。この記事では、江南市の災害リスクの実態と、歴史に刻まれた被害の記録を一次データから読み解きます。


なぜ江南市は水害に弱いのか——地形と河川が生む構造的脆弱性

江南市は濃尾平野の北部、木曽川の左岸(東側)に位置します。標高は概ね5〜10m前後と低く、河川に向かってわずかに傾斜した沖積低地が市域の大半を占めています。

木曽川・長良川・揖斐川の「木曽三川」は、濃尾平野に広大な氾濫原を形成しながら伊勢湾に注いでいます。江戸時代の薩摩藩による宝暦治水(1754〜55年)や明治期の大規模改修が行われるまで、この地域は幾度となく大洪水に見舞われてきました。尾張側を守るために設けられた御囲堤(おかこいてい)は、逆に対岸の美濃(岐阜県側)を犠牲にする治水策でもありました。その歴史が示すように、江南市一帯はもともと「水の通り道」であった場所なのです。

防災DBの125mメッシュ解析によると、木曽川氾濫時の浸水想定メッシュは2万件超に及び、一部エリアでは想定浸水深が20mを超えます。これは4〜5階建ての建物が完全に水没する水深です。市内の浸水想定エリアは実に168,000メッシュに達しており、市域のほぼ全体が何らかの浸水リスクに晒されているといっても過言ではありません。


過去の主要災害——400年以上の被害の記録

伊勢湾台風(1959年9月26日)

江南市の災害史において、最も深刻な被害をもたらした近代の台風です。1959年9月26日、中心気圧929hPaの超大型台風が紀伊半島に上陸し、愛知・三重に壊滅的な高潮被害をもたらしました。全国の死者・行方不明者は5,098人に達し、愛知県だけで3,000人を超える犠牲者が出ました。

江南市内でも死者7人・全壊265棟・半壊285棟・床下浸水778棟(出典:江南市地域防災計画)という甚大な被害が記録されています。木曽川沿いの低地では浸水が長期にわたって継続し、農地・家屋への被害は市の復興に長年の影を落としました。この台風以降、木曽川の堤防強化が急速に進められましたが、川沿いの低地に住む市民にとって台風シーズンの恐怖は今も変わりません。

1976年9月8日の豪雨

1976年(昭和51年)9月8日の豪雨では、床上浸水57棟・床下浸水1,243棟という統計上最大規模の水害が発生しています(出典:江南市地域防災計画)。死傷者の記録はないものの、1,300棟を超える家屋が浸水したことは、台風上陸がなくとも豪雨単体で大きな被害が出ることを示しています。木曽川支流や市内の内水排水路が許容量を超えた内水氾濫が主因とみられます。

東海豪雨(2000年9月11日)

2000年9月11〜12日、停滞前線による記録的豪雨が名古屋市を中心に東海地方を直撃しました。名古屋市の日降水量428mm、経済損失2,700億円超という戦後最大規模の水害です。江南市でも床上浸水46棟・床下浸水415棟(出典:江南市地域防災計画)の被害が確認されており、市内各所で河川の増水と内水氾濫が同時に発生しました。

平成20年8月末豪雨(2008年8月28日)

2008年8月28日の豪雨でも床上浸水5棟・床下浸水125棟を記録。浸水原因の多くは支流の八田川や農業排水路の越水とみられています。

平成21年6月22日豪雨(2009年)

2009年6月22日には床下浸水107棟の被害。梅雨期の集中豪雨によるものです。

令和2年7月豪雨(2020年7月5日)

2020年7月豪雨でも江南市は影響を受け、床下浸水3棟・一部損壊1棟が記録されています。


歴史地震との闘い——濃尾地震から南海トラフまで

濃尾地震(1891年10月28日)

1891年10月28日午前6時38分、岐阜県本巣郡根尾谷を震源とするM8.0の濃尾地震が発生しました。死者7,273人・全壊家屋142,000戸という日本の陸域地震史上最大規模の地震です。江南市(当時は丹羽郡内の各村)も強い揺れを受けましたが、江南市固有の被害記録は現時点では確認できていません。震源断層(根尾谷断層)はまさに江南市の北西に位置する濃尾断層帯の一部であり、この断層が今後再活動する可能性は否定できません。

東南海地震(1944年12月7日)と三河地震(1945年1月13日)

1944年12月7日に東南海地震(M7.9)、翌1945年1月13日には三河地震(M6.8)が連続して発生しました。江南市地域防災計画に記録されており、尾張地方も相応の揺れを経験しています。

歴史的南海トラフ地震の記録

発生日 地震名 規模
1586年1月18日 天正地震 M7.9〜8.1推定
1707年10月28日 宝永地震 M8.4〜8.7推定
1854年12月23日 安政東海地震 M8.4推定
1944年12月7日 東南海地震 M7.9

これらの歴史地震がいずれも江南市地域防災計画に記録されていることは重要です。南海トラフの巨大地震は過去に繰り返し発生しており、次の発生は「時間の問題」とされています。


洪水・浸水リスク——木曽川は最大浸水深20m超

防災DBの125mメッシュ解析による主要河川別の浸水リスクを示します。

河川名 影響メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最大継続時間
木曽川 20,003 20m超 2.45m 336時間(14日間)
庄内川 2,974 10m 2.68m 336時間
長良川 1,014 10m 2.45m 168時間(7日間)
八田川 1,234 3m 0.32m 72時間
矢田川 270 5m 2.92m 336時間

木曽川が破堤した場合、市内の広範囲で2m以上の浸水が14日間以上続く可能性があります。浸水深の目安として——

  • 0.5m: 膝上まで(歩行に支障)
  • 1m: 大人の腰まで(自動車が流される)
  • 2m: 1階天井まで(1階での生活不能)
  • 3〜5m: 2階まで浸水(上階への垂直避難が命綱)
  • 10〜20m: 3〜5階建て建物が完全水没(最高危険区域)

木曽川沿いの市北部エリアでは、最大浸水深20m超の想定もあります。この地域に居住・勤務する方は、まず洪水避難ビル(垂直避難先)の場所を把握することが最優先の防災行動です。


地震リスク——30年以内に震度6弱が74%の地点も

防災DBの地震確率データによると、江南市内では震度6弱以上の揺れが30年以内に発生する確率が平均38.1%、最大で74.1%に達する地点があります。震度5弱以上では平均86.5%と、ほぼ確実に大きな揺れを経験すると想定されます。

江南市周辺の主要活断層

断層名 想定規模 30年発生確率
濃尾断層帯主部(三田洞断層帯) M6.5 0.2%
濃尾断層帯主部(梅原断層帯) M6.9 不明(低い)
濃尾断層帯主部(根尾谷断層帯) M6.8 不明(低い)
木曽山脈西縁断層帯主部北部 M6.9 不明(低い)

濃尾断層帯は1891年の濃尾地震を引き起こした断層系であり、再活動した場合の影響は甚大です。地盤のS波速度(Vs30)は平均326.6 m/sと比較的硬い地盤ですが、低地部では液状化リスク(スコア40)も無視できません。


高潮リスク——伊勢湾台風が示した沿岸からの脅威

江南市は内陸部に位置しますが、南海トラフ巨大地震が発生した場合、伊勢湾の湾奥部への高潮・津波が木曽川河口から遡上してくるリスクがあります。1959年の伊勢湾台風はその危険性を実証しており、防災DBの解析では高潮・津波関連の影響メッシュが9,336メッシュに達します。高潮スコアは最高値の100点であり、南海トラフ地震と台風の複合災害時には特に注意が必要です。


土砂災害リスク

江南市の土砂災害ハザード区域数は9箇所(スコア50)と、水害・地震と比べると相対的に少ない状況です。市北部・東部の丘陵地縁辺部では土砂災害警戒区域が指定されており、大雨時には土砂崩れや急傾斜地崩壊の危険もあります。


江南市の指定避難場所一覧

江南市には市内に44箇所の避難場所(うち広域避難場所14箇所)が指定されています(出典:国土数値情報 避難施設データ)。

施設名 所在地 区分
フラワーパーク江南 小杁町一色地先 広域避難場所
中央公園 北野町川石1-1 広域避難場所・一時避難場所
北部中学校(体育館) 村久野町平松245 広域避難場所・避難所
古知野中学校(体育館) 高屋町遠場148 広域避難場所・避難所
宮田中学校(体育館) 後飛保町前川210 広域避難場所・避難所
西部中学校(体育館) 上奈良町観音寺60 広域避難場所・避難所
布袋中学校(体育館) 北山町西7 広域避難場所・避難所
古知野高等学校(グランド) 古知野町高瀬1 広域避難場所・一時避難場所
尾北高等学校(グランド) 北山町西4 広域避難場所・一時避難場所
江南高等学校(グランド) 北野町川石25-2 広域避難場所・一時避難場所
江南緑地公園(般若) 草井町中270 広域避難場所
江南緑地公園(中般若) 中般若町川端284 広域避難場所
蘇南公園 宮田町本田島322 広域避難場所・一時避難場所
門弟山小学校(体育館) 村久野町門弟山272 広域避難場所・避難所

重要: 木曽川大規模氾濫時は、上記の広域避難場所の一部も浸水する可能性があります。江南市は洪水避難ビル(垂直避難対応施設)を別途指定しており、洪水時は垂直避難先を事前に確認しておくことが不可欠です。


今からできる備え

まず確認すべき公式情報

優先度の高い行動

  1. 自宅・職場のハザードマップ確認:木曽川氾濫ハザードマップで自分の住所の浸水深を確認する
  2. 垂直避難先の把握:洪水避難ビルの場所を事前に確認(市公式サイトで検索可能)
  3. 避難行動の判断基準を決める:「避難指示が出る前に動く」ルールを家族で決めておく
  4. 7日分の備蓄:水(1人1日3L)・食料・医薬品。木曽川氾濫時は14日間以上の孤立も想定
  5. 防災DBの活用:江南市の詳細な125mメッシュリスクデータを無料で確認できます

データ出典

データ 出典
統合リスクスコア・浸水メッシュデータ 防災DB(bousaidb.jp) — 国土交通省ハザードマップポータルサイト提供データを独自解析
過去の災害事例 防災科学技術研究所(NIED)自然災害情報室 災害事例データベース
過去の災害被害記録 江南市地域防災計画(江南市)
活断層データ 地震調査研究推進本部 全国地震動予測地図2024年版
地震確率データ 地震調査研究推進本部 J-SHIS(地震ハザードステーション)2024年版
避難場所データ 国土数値情報 避難施設データ(国土交通省)
自治体防災情報 江南市公式ウェブサイト
伊勢湾台風 全国被害 内閣府 伊勢湾台風に係る災害の教訓報告書
濃尾地震・東海豪雨 全国被害 内閣府 各種報告書

本記事は2024年時点のデータに基づいています。最新のハザードマップ・避難情報は江南市公式サイトでご確認ください。


著者: 防災DB編集部
公開: 2026年4月
更新: 2026年4月