開始の合図、聞く内容、届ける手段、回答期限、未回答の追跡、記録と保管の6項目です。編集部が作成した図版です。
安否確認の社内ルールが決まらない原因は、たいてい「全員の無事を確かめる作業」だと考えているところにあります。無事かどうかだけを集めると、集計が終わっても翌日に誰が来られるのかが分かりません。安否確認は、全員の無事を確かめる作業であると同時に、翌日に動ける人数を数える作業です。
内閣府の事業継続ガイドライン(令和5年3月)も、初動段階で対策本部が実施することとして「従業員等の安否確認を実施、結果を集約」を挙げ、その脚注で「安否確認は、事業継続のために稼動できる要員を把握する意味においても重要である。」と説明しています。
この記事では、その前提で決めるべき6項目と、手作業で回せる限界の計算方法を示します。製品を選ぶのはその後です。
先に決める6項目
次の表をコピーして、自社の欄を埋めてください。埋まらない欄があれば、その欄が今の運用の弱点です。
| 決める項目 |
自社の記入欄 |
| 1 開始の合図(誰が・どの地域で震度いくつのとき) |
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| 2 聞く内容(質問と選択肢) |
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| 3 届ける手段(主・副・会社を経由しない経路) |
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| 4 回答期限と、経営者へ報告する時刻 |
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| 5 未回答者の追い方(担当・順番・所要時間) |
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| 6 記録と保管(集める範囲・保管先・保管期間・消し方) |
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順番にも意味があります。1から3が決まらないと回答は集まらず、4から6が決まらないと集まった回答を使えません。
「無事です」だけでは、翌朝に何人動けるか分からない
安否確認の質問項目は、集計後に何を言えるようにしたいかで決まります。
同じガイドラインは、従業員側の初動として「定められる方法に基づき、自身及び家族の安否の報告」を挙げています。本人だけでなく家族まで含めているのは、家族が無事でないと本人も業務に戻れないからです。
聞くのは、本人の状態、家族と自宅の状況、今いる場所、出社の可否と見込み時期の5点です。
| 質問と選択肢の例 |
この回答で分かること |
| あなたの状態(無事/軽傷/要救助・重傷) |
救助が必要な人の特定 |
| 家族の状況(全員無事/確認中/被害あり) |
本人が業務に戻れるかの前提 |
| 自宅の状況(居住可/一部損壊/居住不可) |
出社継続の見込みと支援の要否 |
| 今いる場所(自宅/勤務先/外出先/避難所) |
参集できる範囲と帰宅困難者数 |
| 出社の可否(出社可/在宅なら可/当面不可) |
翌日から動かせる要員数 |
「出社の可否」は、本人の意思確認ではなく人繰りの材料です。選択肢に「在宅なら可」を入れておくと、拠点が使えない場合でも継続できる業務を切り分けられます。
一方で、家族構成、自宅の被害、居場所は機微な情報です。集める範囲を広げるほど保管の責任も増えるため、6番目の「記録と保管」とセットで決めてください。
同じ回答率でも、聞いた項目によって経営者へ報告できる内容が変わります。
なお、従業員の家族が互いにどう連絡を取り合うかは、会社では決められません。従業員へ配る資料としては、災害に備えて、家族の連絡方法と待ち合わせを決めておくを案内できます。
開始の合図は、人ではなく基準で決める
「大きな地震が来たら総務が一斉送信する」という運用は、総務の担当者が無事で、電波が届き、起きている場合にだけ成立します。担当者が発報することを、唯一の開始条件にしない。
基準にするのは、拠点ごとの震度です。気象庁の震度階級関連解説表は、震度ごとに人の体感や行動を次のように説明しています。
| 震度 |
気象庁の解説表にある人の体感・行動 |
| 5弱 |
大半の人が、恐怖を覚え、物につかまりたいと感じる |
| 5強 |
大半の人が、物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じる |
| 6弱 |
立っていることが困難になる |
この段階の差を、安否確認の扱いに対応させます。震度5弱を自動で開始する下限の候補とし、震度5強では出社可否まで含めて確認し、震度6弱では対策本部の立ち上げと同時に扱う、といった置き方です。この対応づけは編集部の案で、公的な推奨値ではありません。自社の建物の耐震性、階数、夜間勤務の有無に応じて上下させてください。
拠点が複数ある場合は、拠点ごとに基準を持ちます。本社が東京、工場が静岡なら、静岡で震度6弱の地震が起きたときに東京の基準で判断しても意味がありません。開始基準は「どの地域で、どの震度以上のとき」という形で書きます。
自社の拠点でどの震度が想定されているかは、地震の発生確率の公開データで確認できます。防災科学技術研究所のJ-SHISに基づく30年以内の震度別発生確率は、防災DBの拠点別ハザード評価資料でも出力しています。確率の高い震度を基準の下限に置くと、実際に起きたときに発報しない事態を避けられます。
連絡手段は2つ以上。1つは会社を経由しない経路にする
ガイドラインは、経営者が参集できない場合に備えて「経営者との通信手段を多重化しておくことが推奨される」と脚注で述べています。これは経営層に限った話ではありません。
会社側の起点が動かなくても、社員が自分から報告できる経路を一つ残します。
経路は、起点で三つに分けて考えると整理できます。会社が起点になる通知(一斉メール、自動配信、電話連絡網)は送信担当者の被災や社内サーバーの停止で止まります。本人の端末で受け取る通知(アプリのプッシュ通知、LINE)は電池切れや通信の混雑で届きません。そして三つ目が、会社を経由せず本人から報告する経路です。
災害用伝言ダイヤル(171)は、NTT東日本の説明によれば「地震、津波などの災害の発生により、被災地への通信が大きく制限される場合に提供を開始する仕組みです。」とされています。常時使える手段ではないため、単独の連絡方法にはできません。会社の仕組みが止まったときの最後の受け皿として、番号と使い方を配布物に印刷しておく位置づけになります。
会社側の起点が止まる場合を想定し、社員から報告できる経路を一つ残します。
未回答者を追う時間を、先に計算しておく
システムが必要かどうかは、感覚ではなく時間で判断できます。初回の通知で回答しない人を、誰が、何分かけて追うのかを計算します。
計算式はこれだけです。
未回答者数 ×(1件あたりの追跡時間)÷ 追跡担当者数 = 追跡にかかる時間
1件あたり3分、追跡担当者2人、初回回答率60%と仮定すると、次のようになります。
| 対象人数(未回答者) |
追跡にかかる時間の試算 |
| 30人(12人) |
18分 |
| 50人(20人) |
30分 |
| 100人(40人) |
60分 |
| 300人(120人) |
3時間 |
| 500人(200人) |
5時間 |
回答率を変えると、同じ100人でもこう変わります。
| 初回回答率(未回答者) |
追跡にかかる時間の試算 |
| 90%(10人) |
15分 |
| 70%(30人) |
45分 |
| 50%(50人) |
75分 |
| 30%(70人) |
105分 |
3分・2人・60%はいずれも編集部が置いた仮定値で、業界の推奨値ではありません。自社の訓練を1回行えば、実際の初回回答率と1件あたりの所要時間が取れるので、その値に置き換えてください。
この試算は、1回連絡すれば必ずつながる前提で計算しています。実際には電話がつながらず3回かけ直すこともあり、その場合は単純に3倍になります。夜間や休日は追跡担当者が2人揃わないこともあり、担当者自身が被災していれば分母はさらに減ります。限界を決めるのは総人数ではなく、未回答者数×1件あたりの追跡時間÷追跡担当者数です。
目標時間の決め方は、BCPの目標復旧時間と揃えます。4時間以内に事業継続の可否を判断すると決めているなら、要員の把握はその前に終わっている必要があります。BCP側の考え方はBCPの策定方法|中小企業が初版を完成させる7ステップで整理しています。
決めた6項目は、そのまま安否確認システムの設定項目になる
試算した時間が目標に間に合わないなら、自動配信、自動集計、自動催促のどれかを機械に任せることになります。ここで初めて製品を見ます。
製品を比べる前に、この左側が埋まっているかを確認します。
6項目が決まっていなければ、どの製品を選んでも設定画面で手が止まります。開始震度、質問項目、通知経路、催促の条件は、どの製品でも管理者が入力する項目だからです。
ANPIC(アンピック)の公式サイト
当てはめの例として、安否確認システムの一つであるANPIC(アンピック)の公開仕様を6項目に対応させてみます。ANPICは、静岡大学・静岡県立大学と株式会社アバンセシステムが共同開発した産学連携のシステムで、公式ページには2012年にリリースされたと記載されています。
ANPIC公式サイト(2026年9月14日確認)。画像をクリックすると公式サイトへ移動します。
- 開始の合図:気象庁が提供する地震情報を自動取得し、規定値以上の地震で自動配信。自動配信する震度と地域は組織ごとに変更でき、県外に事業所がある場合も所在地域に合った震度設定ができる。余震で地震が連続した場合の送信抑制もある
- 聞く内容:アンケート機能で質問内容と選択肢を自由に設定できる。会議の出欠確認など平常時の社内連絡にも使える
- 届ける手段:メールに加えて専用アプリのプッシュ通知とLINEのメッセージで受け取れる。LINE側のサーバーには氏名やメールアドレスなどの個人情報を保存しないと明記されている
- 回答期限と報告:収集した安否情報を組織体系に合わせて自動集計し、グラフと数字で確認できる
- 未回答者の追い方:未回答者への催促メール送信、携帯電話を持たない社員などに代わって管理者が入力する代理報告、宛先不明や迷惑メール設定で届かなかった相手を把握できる送信状況の確認
- 記録と保管:メールアドレスは利用者本人が登録し、管理者にも非公開になると記載されている
上記は2026年9月9日に公式ページで確認した内容です。料金は公開されている表で確認できます。50名で初期導入費25,000円・月額5,130円、100名で50,000円・5,510円、300名で75,000円・10,640円(いずれも税抜)です。マスタ連携と電話番号表示の機能は別途費用がかかり、掲載は一部プランのみのため、記載のない人数は問い合わせが必要です。
ここではANPICの公開仕様を、6項目の当てはめ例として使いました。ほかの安否確認システムにも同種の機能があり、この記事は製品の優劣を判定するものではありません。契約条件、無料体験の範囲、サポート内容は提供元へ直接確認してください。
比較検討に入るときは、機能の数ではなく、自社が決めた6項目をその製品で設定できるかを一つずつ確認します。設定できない項目があれば、運用でどう補うかを先に決めます。
訓練で測るのは回答率ではなく、要員を数えられるまでの時間
ガイドラインは訓練の目的の一つを「対象者が知識として既に知っていること(バックアップシステムの稼動方法、安否確認等)を実際に体験させることで、身体感覚で覚えさせること」としています。もう一つの目的は、計画やマニュアルの弱点を洗い出すことです。
年1回の訓練で記録するのは、次の4つです。
- 初回通知から、回答が7割に達するまでの時間
- 未回答者の追跡を始めてから、全員の状況が確定するまでの時間
- 通知が届かなかった人数と、その原因(アドレス誤り、迷惑メール、端末変更)
- 集まった回答から、翌日に稼働できる人数を出せたかどうか
測るのは回答率ではなく、初回通知から稼働できる要員を数えられるまでの経過時間です。回答率が9割でも、出社可否を聞いていなければ4は出せません。
訓練の結果は、前の章の試算式の仮定値に入れ替えます。1件あたりの追跡時間が3分ではなく8分だったなら、目標時間を守るには担当者を増やすか、催促を自動化するかのどちらかになります。
記録は、集める範囲と消し方まで決めて初めて運用できる
安否確認で集まるのは、本人の健康状態、家族構成、自宅の被害、居場所です。平常時の名簿より機微な情報が含まれます。
決めておくのは次の4点です。
- 集める範囲:人繰りの判断に必要な項目だけにする。安否確認を口実に、平常時に不要な情報まで集めない
- 保管先:システム内か、担当者の端末か。個人の携帯に残る運用は避ける
- 閲覧できる人:管理者を組織単位で限定するか、全社の管理者が全員分を見るか
- 保管期間と削除方法:訓練分と実災害分を分け、いつ誰が消すかを決める
法定の保管期間が業種ごとに定められている場合があるため、社内規程や委託先との契約と突き合わせて決めてください。この記事では法的な要件までは扱っていません。
6項目が埋まったら、社内文書にする
この記事の6項目が埋まれば、開始震度、聞く5項目、主と副の連絡手段、回答期限、未回答者の追跡担当と所要時間、記録の保管方針までが決まります。次はこれを、担当者が変わっても引き継げる形で文書にします。
文書化のときに一緒に決めておくと手戻りが減るのは、拠点ごとの開始震度の根拠です。想定される震度の確率を書いておけば、なぜその基準にしたのかを後任者や経営者へ説明できます。
BCPそのものの位置づけや用語はBCPとは?防災マニュアルとの違いと、最初に決める4つのことで確認できます。安否確認は、その初動段階の入口にあたる部分です。
決めた6項目を、安否確認・緊急連絡網の様式に落とす
防災DBの法人向け無料作成では、会社名と拠点の住所から、安否確認・緊急連絡網を含む編集できるWord資料8点の下書きを作れます。出力した様式へ、この記事で決めた開始震度、質問項目、連絡手段、回答期限、追跡担当を書き足してください。
安否確認・緊急連絡網を含むBCP資料8点を無料で作成する
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