富津市の災害リスクと歴史年表|関東大震災・台風15号・津波・洪水のすべて

千葉県富津市は、防災DBの統合リスクスコアが89/100(極めて高い)という、関東有数の高リスク自治体だ。洪水・津波・高潮・地震の4項目すべてでスコアが100を記録しており、「どの災害も最大級」という地形的宿命を持つ。過去の記録では、1923年の関東大震災で死者52名・全壊978棟、2019年の台風15号では一部損壊2,803棟という甚大な被害を受けてきた。

この街に住む人が最初に知るべきことは一つ——富津市は東京湾に突き出た砂州(富津岬)と低地、そして背後の丘陵地が組み合わさった地形であり、「水害・地震・津波・土砂崩れ」のすべてが同時に来る可能性があるということだ。


富津市の統合リスク概要

防災DB(bousaidb.jp)が125mメッシュの全国一次データを統合分析した結果、富津市のリスク評価は以下のとおりだ。

リスク種別 スコア(0-100) 最大想定浸水深
洪水 100 20m超
津波 100 20m超
高潮 100
地震 100
土砂災害 50
液状化 40
統合スコア 89

洪水・津波・高潮・地震の4項目が軒並み100という数値は、全国的にも稀だ。これは単に「危ない場所がある」というレベルではなく、市域の広い範囲が複数の災害リスクに同時にさらされていることを示す。


なぜ富津市はこれほど災害に弱いのか

富津市の地形は3つの要素で成り立っている。

①東京湾に面した低地・河口部。富津岬は東京湾に約5km突出する砂州地形で、市街地の多くは海抜数メートル以下の低地に展開する。高潮・津波が発生した際に浸水が最も速く広がる地域だ。

②小糸川・小櫃川の流域。房総丘陵を源流とする2河川が市域を南北に貫く。特に小糸川は中流部で蛇行が著しく、過去の台風時には繰り返し溢水してきた。防災DBの125mメッシュ解析では、小櫃川流域で4,011メッシュ・最大浸水深10m超、小糸川流域で1,144メッシュ・平均浸水深2.12mという浸水リスクが確認される。

③房総丘陵の末端部(鋸山周辺)。市南部は泥岩・凝灰岩が主体の地質で風化が進みやすく、急傾斜地での土砂崩れが発生しやすい。土砂災害ハザードメッシュは市域内で5,102メッシュに達する。

この3つが重なることで、台風1つで「洪水+高潮+土砂崩れ」が同時多発する可能性があり、地震が加われば「倒壊+津波+火災」が連動するシナリオもある。

地震確率データ(2024年時点)

防災DBの125mメッシュ地震確率データ(J-SHIS 2024年版)によれば、富津市の地震リスクは以下のとおりだ。

指標
震度6弱以上・30年確率(市域平均) 36.67%
震度6弱以上・30年確率(市域最大) 95.46%
震度5弱以上・30年確率(市域平均) 98.82%
表層地盤S波速度(市域平均) 360.6 m/s

震度5弱以上が「ほぼ確実(98.82%)」という数値は、富津市がいかに揺れやすい地帯にあるかを示す。最大値で95.46%という震度6弱以上の確率は、関東でも最高水準の一つだ。


主要災害の記録(詳細)

2019年9月9日 令和元年房総半島台風(台風15号)

台風15号(アジア名: ファクサイ)は2019年9月9日未明、観測史上最強クラスの勢力で千葉県上陸。富津市は台風の通過コース上に位置し、市内全域が暴風に直撃された。

富津市の被害(富津市地域防災計画より):
- 全壊: 46棟
- 半壊: 249棟
- 一部損壊: 2,803棟
- 停電は9月25日まで約2週間継続

一部損壊2,803棟という数字は富津市の総住宅数(約2万5千戸)の1割超に相当する。屋根瓦の飛散・金属屋根のめくれが市内全域で相次ぎ、修繕業者が不足して長期間放置された家屋も多かった。南部の鋸山周辺では大規模な天然風倒木被害が発生し、林道・登山道が塞がれた。台風15号は千葉県全体で全壊391棟・半壊76,483棟を記録した(最終確定値)。

1923年9月1日 関東大震災

M7.9の関東地震(震源: 相模湾北西部)は11時58分に発生し、富津市域(当時の君津郡)に壊滅的な被害をもたらした。

富津市の被害(富津市地域防災計画・震災編より):
- 死者: 52名
- 負傷者: 142名
- 全壊: 978棟
- 半壊: 762棟

全壊978・半壊762という数値は、当時の市域人口(約2万人強と推定)に対して凄まじい比率だ。特に東京湾岸の低地集落では建物倒壊と地滑りが同時に発生したとされる。関東大震災は千葉県全体で死者1,346名の大災害であり、富津市を含む君津郡は安房郡に次ぐ被害地域となった。

この地震が残した最大の教訓は、富津市が「相模トラフ地震の直撃圏内」にあるという事実だ。次の相模トラフ地震が発生すれば、1923年の再現が起こりうる。

1989年8月 台風11・12・13号(三連続台風)

1989年8月、3つの台風が相次いで日本に上陸・接近した。

富津市の被害:
- 死者: 1名
- 負傷者: 6名
- 床上浸水: 159戸
- 床下浸水: 259戸
- 全壊: 11棟
- 半壊: 8棟

床上浸水159戸は、家財道具・生活基盤が失われる深刻な被害だ。小糸川・小櫃川の河川氾濫が主因とみられ、低地の農業被害も甚大だった。

1996年9月22日 台風17号

富津市の被害:
- 死者: 1名
- 床上浸水: 18戸
- 床下浸水: 151戸
- 全壊: 1棟

1974年7月8日 台風8号等による豪雨

富津市の被害:
- 床上浸水: 13戸
- 床下浸水: 492戸

床下浸水492戸はこの年の台風シーズンにおける富津市最大の浸水被害記録の一つだ。台風8号がもたらした前線の活発化で記録的な雨量となり、小糸川・小櫃川が広範囲で溢水した。

1987年12月17日 千葉県東方沖地震

千葉県東方沖を震源とするM6.7の地震が発生し、富津市でも一部損壊9棟の被害が記録された(出典: 富津市地域防災計画震災編)。

2013年10月16日 台風26号

富津市の被害:
- 床上浸水: 20戸
- 床下浸水: 43戸
- 一部損壊: 34棟


過去の災害年表(全記録)

月日 災害名・種別 主な被害
1703 12/31 元禄地震(M8.2推定) 記録あり
1855 11/11 安政大地震(江戸地震) 記録あり
1923 9/1 関東大震災 死者52名・全壊978棟・半壊762棟
1970 7/1 洪水 死者2名・全壊51棟
1974 7/8 台風8号等 床上13・床下492戸
1979 10/19 台風20号 半壊3棟・一部損壊146棟
1982 8/1 台風10号 全壊4棟
1986 8/4 台風10号等 全壊1棟・床下14戸
1987 12/17 千葉県東方沖地震 一部損壊9棟
1989 8/1 台風11・12・13号 死者1・全壊11・床上159・床下259戸
1990 9/29 台風 床下38戸
1995 1/4 台風 一部損壊114棟
1996 9/22 台風17号 死者1・全壊1・床上18・床下151戸
1999 7/13 洪水 床下9戸
2002 10/1 台風21号 半壊1・一部損壊1棟
2011 3/11 東日本大震災 床上4・床下3・一部損壊19棟
2012 9/30 台風17号 一部損壊1棟
2013 10/16 台風26号 床上20・床下43・一部損壊34棟
2019 9/9 令和元年房総半島台風 全壊46・半壊249・一部損壊2803棟
2020 7/4 令和2年7月豪雨 洪水・浸水警報発令

出典: 富津市地域防災計画(令和3年3月全面修正版)・NIED自然災害データベース


洪水・浸水リスク

小糸川・小櫃川のリスク

防災DBの125mメッシュ浸水解析(国土交通省浸水想定区域データ基準)では、富津市周辺の主要河川ごとに以下のリスクが確認される。

河川名 リスクメッシュ数 最大浸水深 平均浸水深 最長浸水継続時間
小櫃川 4,011 10m超 1.18m 72時間
小糸川 1,144 10m超 2.12m 72時間
矢那川 440 10m超 1.44m 72時間
湊川 261 10m超 3.16m 24時間
加茂川 295 5m 1.51m 72時間

浸水深のイメージ:
- 0.5m = 膝下浸水。歩行が困難になる
- 1m = 大人の腰。車が流されはじめる水深
- 2m = 1階天井付近。2階への垂直避難が必要
- 3m = 2階の床上。2階での避難も危険になる
- 5m以上 = 家屋自体の崩壊リスク

小糸川の「平均2.12m」という数値は、浸水域全体の平均が1階天井付近に達することを意味する。最大10m超は家屋が完全に水没する深さであり、早期避難が生死を分ける。


津波・高潮リスク

富津市は東京湾に面した沿岸市であり、津波・高潮のリスクスコアはともに最高値(100)だ。

防災DBの津波・高潮メッシュ解析では、市域内の12,512メッシュが浸水リスク対象として検出されている(洪水のほぼ2倍の面積規模)。

主なリスク要因:
- 富津岬周辺の低地は海抜数メートル以下で、高潮が来ると広範囲が即座に浸水する
- 小糸川・小櫃川の河口低地は逆流型浸水のリスクがある
- 東京湾は内湾のため大規模外洋津波の直撃は限定的だが、相模トラフ地震・東京湾北部地震による津波は現実的な想定シナリオだ

千葉県は最大クラスの津波として5シナリオの浸水想定区域を設定しており、富津市の金谷地区(浦賀水道に近接)は外洋の影響を特に受けやすい地区とされる。


地震・活断層リスク

富津市は相模トラフ沿いに位置するだけでなく、三浦半島断層群の影響圏内にある。

断層名 想定マグニチュード 30年発生確率
三浦半島断層群主部武山断層帯 M6.5 8.39%
三浦半島断層群南部 M7.0 0.59%
三浦半島断層群主部衣笠・北武断層帯 M6.7 0.006%

武山断層帯の30年発生確率8.39%は、政府が「やや高い」と評価する水準(3%以上)を大きく上回る。M6.5は建物倒壊が多発する規模で、最大震度は7に達する可能性がある。

なお、1923年の関東大震災はこれらの断層とは別に相模トラフを震源とするものだった。次の相模トラフ巨大地震に加え、三浦半島断層群の単独活動も独立したリスクとして存在する点が、富津市の地震リスクを極めて高くする要因だ。


土砂災害リスク

富津市南部は房総丘陵の末端に位置し、泥岩・凝灰岩主体の地質が風化によって崩れやすい。防災DBの土砂災害メッシュ(国土交通省土砂災害ハザードデータ基準)では、市域内で5,102メッシュが土砂災害リスク区域として検出されている。

千葉県が指定した土砂災害(特別)警戒区域一覧は千葉県公式ページで確認できる。台風15号(2019年)では鋸山周辺で大規模な倒木・斜面崩壊が発生しており、山間部の道路が長期間寸断された。


避難施設一覧

富津市には計69か所の避難施設が設置されている(2024年時点、広域避難場所の指定はなし)。主な施設を以下に示す。

施設名 住所 種別
富津公民館 富津市新井932-34 一時避難所・収容避難所
富津小学校屋内運動場 富津市富津396 一時避難所・収容避難所
富津中学校格技場・屋内運動場 富津市下飯野1135 一時避難所・収容避難所
中央公民館 富津市小久保2958-1 一時避難所・収容避難所
大貫中学校屋内運動場 富津市岩瀬616-1 一時避難所・収容避難所
大貫小学校屋内運動場 富津市小久保120 一時避難所・収容避難所
佐貫中学校格技場・屋内運動場 富津市佐貫39 一時避難所・収容避難所
天羽中学校格技場・屋内運動場 富津市岩坂108 一時避難所・収容避難所
吉野小学校屋内運動場 富津市絹178 一時避難所・収容避難所
君津商業高等学校体育館 富津市岩瀬1172 一時避難所・収容避難所
天羽高等学校体育館・格技場 富津市数馬229 一時避難所・収容避難所
元環南小学校 富津市志駒1189 一時避難所・収容避難所

ご自宅に最寄りの避難所を事前に確認しておくことが重要だ。富津市Web版防災ハザードマップでは地図上で最寄り施設を確認できる。


今からできる備え

公式防災情報を確認する

具体的なアクション

今すぐ確認すること:
1. 自宅がハザードマップのどの浸水区域・土砂災害警戒区域に該当するか確認する
2. 最寄りの避難所(上記一覧または富津市Web版ハザードマップで確認)と避難経路を家族全員で共有する
3. 台風シーズン前(6月まで)に食料・水(最低3日分・可能なら7日分)、懐中電灯・乾電池を備蓄する

台風・大雨時のポイント:
- 富津市は「台風直撃で複数河川が同時に溢水する」可能性がある。気象警報が発令されたら躊躇わず早期避難を
- 停電は長期化する(台風15号では2週間)。モバイルバッテリーの充電・ラジオの準備が有効

地震時のポイント:
- 震度6弱以上の30年確率が最大95.46%という数値は「いつ来てもおかしくない」レベル
- 建物耐震化の確認と、家具転倒防止固定が最優先の対策


データ出典

出典 内容
国土交通省 浸水想定区域データ(2024年) 洪水浸水深・継続時間
国土交通省 土砂災害ハザードデータ(2024年) 土砂災害リスクメッシュ
国土交通省 津波・高潮浸水想定区域データ(2024年) 沿岸浸水リスクメッシュ
防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース 過去の災害事例・被害数値
J-SHIS 地震動予測地図(2024年版) 地震確率・地盤データ
国土交通省 活断層データベース 活断層情報
富津市地域防災計画(令和3年3月全面修正版) 自治体の災害記録・被害数値
国土数値情報 指定緊急避難場所データ 避難施設情報

本記事のデータは防災DB(bousaidb.jp)が各一次データを統合分析したものです。最新情報は各機関の公式ページをご確認ください。


著者: 防災DB編集部 / 最終更新: 2026年4月