東京都港区の災害リスクと歴史|関東大震災・高潮・液状化が重なる湾岸都市の全貌
港区は六本木・麻布・赤坂の高級住宅街から、台場・芝浦・港南の湾岸オフィス・商業エリアまで抱える、東京を代表する都心部だ。しかしその華やかな都市景観の裏に、複数のカテゴリで満点(スコア100)を記録する深刻な災害リスクが潜んでいる。
防災DBが125mメッシュの空間データを用いて算出した統合リスクスコアは89/100(リスクレベル:極めて高い)。洪水・津波・高潮・地震の4カテゴリで全てスコア100を記録した。東京23区の中でも最上位クラスのリスク密度を持つエリアだ。
本記事では、1923年の関東大震災から令和の台風まで、港区が経験してきた災害の歴史を紐解くとともに、最新の科学データが示す将来リスクを解説する。
港区の地形が作り出す「複合リスク」
港区の災害リスクを理解するには、まず地形の複雑さを把握する必要がある。港区は大きく3つの地形区分で構成されている。
台地エリア(麻布・赤坂・白金周辺)は武蔵野台地の縁辺部にあたり、標高10〜25mの高台が広がる。地盤は比較的安定しているが、台地の縁(がけ)が多数存在し、急傾斜地崩壊のリスクが集中する。
低地エリア(新橋・浜松町・芝周辺)は古川(品川区境を流れる二級河川)沿いの沖積低地で、標高は0〜5m程度。過去の洪水でたびたび浸水した地域だ。
埋立地エリア(台場・芝浦・港南・海岸)は近代以降に東京湾を埋め立てた人工地盤で、標高はほぼ0〜2m。液状化リスクが高く、津波・高潮の直撃を受ける最前線に位置する。
この3地形が隣接して存在するため、洪水・高潮・津波・地震・急傾斜地崩壊という複数のハザードが同時に重なる「複合リスク都市」という性格を持つ。
過去の主要災害
1923年 関東大震災(最大規模の歴史的被害)
1923年(大正12年)9月1日午前11時58分、マグニチュード7.9の関東大震災が発生した。震源は相模湾北西部(現・神奈川県西部)で、深さは約23km。正午直前という「昼食の調理中」という時間帯が、東京全域での火災拡大を招いた。
現在の港区域は当時、芝区・麻布区・赤坂区の3区に分かれていた。
- 芝区(現・新橋〜浜松町周辺):死者270人。北部の低地エリアで火災が延焼し、大きな被害が生じた
- 麻布区(現・麻布・六本木周辺):死者35人。台地上に位置するため火災の延焼が比較的抑制された
合計300人以上が命を落とした計算になる。芝区の被害は火災が主因だったが、現在の港区域に海岸線を持つという地形的特性が、津波・高潮リスクを常に抱えさせている。
当時から100年以上が経過した現在も、関東大震災クラス(M7.9〜8.0)の元禄型関東地震は「次の発生を否定できない」地震として政府の防災計画に組み込まれている。
2019年 令和元年台風第19号(近年最大の台風被害)
2019年10月12日、超大型の台風第19号(令和元年東日本台風)が上陸。防災DB(NIEDデータベース)に記録された港区の被害は床下浸水3件・一部損壊2件と規模は限定的だったが、首都圏全体では記録的な被害が発生した。
港区では古川の増水による内水氾濫が懸念され、低地エリアの住民に避難勧告が発令された。被害が限定されたのは近年の河川改修や下水道整備が功を奏したと見られるが、これは「ハザードが解消された」ことを意味しない。防災DBの洪水スコアはいまも満点の100を示している。
全災害年表
| 年 | 月 | 災害名・種別 | 主な被害 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 1923 | 9 | 関東大震災(地震・火災) | 芝区270人・麻布区35人死亡 | 内閣府報告書 |
| 1963 | — | 昭和38年豪雪 | 記録あり(詳細不明) | NIED |
| 1991 | 9 | 台風17〜19号・前線 | 半壊2・一部損壊3 | NIED |
| 2004 | 10 | 台風22号・前線 | 床上浸水18・床下浸水69 | NIED |
| 2006 | 7 | 平成18年7月豪雨 | 床下浸水15 | NIED |
| 2006 | 9 | 風水害 | 床上浸水10・床下浸水25 | NIED |
| 2019 | 10 | 台風第19号(令和元年東日本台風) | 床下浸水3・一部損壊2 | NIED |
2004年10月の台風22号では床下浸水が69件と、近年最多の浸水被害を記録している。
洪水・高潮リスク:スコア満点100の意味
洪水(古川・目黒川)
防災DBの125mメッシュ解析では、港区を含む地域の洪水浸水想定データとして古川(呑川水系)・隅田川・荒川・神田川の影響が確認されている。古川沿いの低地では、最大規模の降雨時(総雨量690mm・最大時間153mm)に浸水深3m以上が想定される区域が広がる。
浸水深の具体的なイメージ:
- 0.5m:車のボンネット程度。地下への浸水が始まる
- 1.0m:大人が立って歩けない水深
- 3.0m:1階の天井まで水没
- 5.0m:2階の床上まで水没
港区の洪水ハザードマップが示す最大浸水想定深は20mに達する区域もある(防災DB gold層データ)。これは複数の河川が同時氾濫し、さらに排水不能な状況が重なった場合の極端シナリオだ。
港区が特に注意すべき点は地下空間への流入だ。 新橋・汐留・品川などの地下鉄・地下街は、地表の浸水が始まれば急速に被害が拡大する。東京都の内水ハザードマップでは、駅の地下出入口付近での浸水深が高く示されているエリアが複数存在する。
高潮(湾岸エリアの最大リスク)
港区南東部の台場・芝浦・港南は、東京湾に面した埋立地だ。ここでの最大リスクは高潮だ。
防災DBが保有する125mメッシュ高潮データでは、港区の海岸・湾岸エリアで最大高潮浸水深10.0mが想定される地点が存在する。影響を受けるメッシュ数は2,121箇所。
東京都港湾局が2024年12月に改訂した高潮浸水想定区域図では、元禄型関東地震に伴う液状化・地盤沈下(港区内で65〜74cm)を考慮した計算が採用されており、大地震と高潮が複合して発生した場合、湾岸エリアへの浸水被害は一層深刻になる可能性がある。
地震リスク:30年以内の震度6弱確率、平均54%
高い地震確率
防災DBの125mメッシュ地震データ(2024年版)によると、港区周辺のメッシュにおける今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は:
- 平均:53.86%
- 最大:82.04%
全国平均と比べて格段に高いこの数値は、南関東地域が複数の地震発生源に囲まれていることを示す。相模トラフ(相模湾から房総沖に延びる海溝)では、マグニチュード8クラスの海溝型地震が繰り返し発生しており、1703年の元禄関東地震(M8.2)と1923年の関東大震災(M7.9)がその代表例だ。
また、港区の隣接地域を震源域とする可能性がある首都直下地震(M6.9〜7.3クラス)は、今後30年以内の発生確率が約70%(政府発表)とされる。
軟弱地盤による揺れの増幅
港区の地盤特性を見ると、表層地盤のS波速度(AVS30)の区域内平均は232.1 m/s。これは「軟弱」に分類される数値で(硬い岩盤は600 m/s超)、地震動の増幅率は平均1.48倍に達する。つまり、震源で発生した揺れが地表に届くまでに1.5倍近くに増幅される地帯だ。
三浦半島断層群(近傍の活断層)
防災DBの活断層マスタに収録されている近傍断層として、三浦半島断層群主部武山断層帯(マグニチュード6.5想定、30年発生確率8.39%)が挙げられる。神奈川県三浦半島を走るこの断層が動けば、港区でも強い揺れが予想される。
液状化リスク:埋立地・低地が一斉に軟弱化
港区の液状化リスクマップ(港区公表)では、以下のエリアが高危険度に指定されている:
- 台場・芝浦・港南・海岸エリア(埋立地全域)
- 古川沿いの低地帯(新橋・芝地区北部)
- 虎ノ門・西新橋周辺(沖積低地)
液状化が発生すると、地盤が砂や泥を噴き出しながら液体状になる。建物の沈下・傾斜、電柱・マンホールの浮上、道路の亀裂が生じ、避難や救助活動を阻害する。
特に台場・芝浦・港南は大型オフィスビルや高層マンションが密集するエリアだが、埋立地特有の液状化リスクは建物の基礎形式や建設年代によって大きく異なる。 1980年代以降に建設された高層建物の多くはパイル基礎で液状化対策を施しているが、古い低層建物は要注意だ。
急傾斜地崩壊:「意外な盲点」が死者リスクの最大要因
港区の災害リスクで見落とされがちなのが、急傾斜地崩壊(がけ崩れ)だ。
港区独自の首都直下地震被害想定調査(令和5年3月発表)によると、港区内における地震による死者の約40%は急傾斜地崩壊が原因と推計されている。東京23区の急傾斜地崩壊危険箇所592か所のうち、港区が118か所(約5分の1)を占めるという驚くべき数字だ。
麻布・赤坂・白金エリアの台地縁辺部には、かつての谷地形が残る複雑なアップダウンがあり、そのがけ下・がけ上に住宅や道路が存在する。ここが強い地震(震度6強以上)に見舞われた際、大規模な崩壊が連鎖する可能性が指摘されている。
防災DBの土砂災害スコアは50(中程度)だが、地震トリガーの急傾斜地崩壊リスクは上記の通り深刻だ。麻布・赤坂・白金台に住む方は、自宅周辺のがけの有無と、港区が公開する土砂災害ハザードマップの確認を強く推奨する。
津波リスク:東京湾口が防護壁、しかし過信は禁物
港区は東京湾の最奥部に位置するため、太平洋からの津波は千葉・神奈川の房総半島・三浦半島によってかなり減衰される。しかし相模トラフ沿いの地震では、湾奥まで津波が到達することが想定されており、防災DBの津波スコアは満点の100だ。
防災DBの津波浸水エリア数は63,067メッシュ(125m×125m)にのぼり、台場・芝浦・港南の沿岸部を中心に浸水が想定される。最大浸水深は20mと示されているが、これは最悪ケース(相模トラフ最大規模)の試算だ。
港区の避難施設
防災DBが保有する港区の避難施設データでは、計62か所の避難場所・避難所が登録されている。
主要避難施設(一部)
| 施設名 | 住所 | 種別 |
|---|---|---|
| 台場区民センター | 港区台場1-5-1 | 避難所 |
| 六本木中学校 | 港区六本木6-8-16 | 避難所 |
| 御成門中学校 | 港区西新橋3-25-30 | 避難所 |
| 御成門小学校 | 港区芝公園3-2-4 | 避難所 |
| 三光小学校 | 港区白金3-18-2 | 避難所 |
| 朝日中学校 | 港区白金4-1-12 | 避難所 |
| 南山小学校 | 港区元麻布3-8-15 | 避難所 |
| エコプラザ | 港区浜松町1-13-1 | 避難所 |
| サンサン赤坂 | 港区赤坂6-6-14 | 避難所 |
| 三田中学校 | 港区三田4-13-10 | 避難所 |
自宅・職場から最寄りの避難場所を事前に確認しておくことが重要だ。特に港区のように昼間人口(就業者・来街者)が多い地域では、「帰宅困難者対策」として職場での備蓄・宿泊スペースの確保も欠かせない。
今からできる備え
公式防災情報の確認
- 港区公式防災ページ・ハザードマップで洪水・高潮・液状化・土砂災害の全ハザードを確認できる
- 東京都高潮浸水想定区域図(2024年12月改訂版)
- 首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年5月・東京都)
チェックリスト
今日中にできること
- 港区ハザードマップで自宅・職場のリスクを確認する
- 自宅から最寄りの避難所(上記一覧参照)への経路を歩いて確認する
- 急傾斜地崩壊危険箇所に自宅・通勤経路が含まれるか確認する
1週間以内にできること
- 食料・飲料水(最低3日分、可能なら1週間分)の備蓄
- 携帯トイレ・カセットコンロ・懐中電灯の準備
- 家族との集合場所・連絡方法の確認
地域コミュニティへの参加
- 港区自主防災組織への参加(区役所防災課に問合せ)
- 町会・自治会の防災訓練への参加
港区は昼間人口が夜間人口を大幅に上回る都市だ。就業者・来街者の多くは「被害想定を知らないまま滞在している」状況にある。防災DBは登録不要・完全無料でハザードデータを提供しており、地図上で直感的にリスクを確認できる。出張・外出先の防災確認にも活用してほしい。
データ出典
本記事のデータは以下の公的資料・データセットに基づく。
| データ | 出典・ソース |
|---|---|
| 統合リスクスコア・メッシュデータ | 防災DB(bousaidb.jp) 125mメッシュ解析(2024年) |
| 地震30年確率 | 防災科学技術研究所(NIED)J-SHIS 全国地震動予測地図 2024年版 |
| 過去の災害事例 | 防災科学技術研究所 自然災害データ室(NIEDデータベース) |
| 避難施設データ | 国土交通省 国土数値情報(避難施設)nlftp_p20 |
| 高潮浸水想定 | 東京都港湾局 高潮浸水想定区域図(2024年12月改訂) |
| 液状化マップ | 港区公式液状化マップ |
| 首都直下地震被害想定 | 港区「首都直下地震被害想定の調査・分析結果」(令和5年3月) |
| 東京都被害想定 | 東京都「首都直下地震等による東京の被害想定」(令和4年5月) |
| 関東大震災被害 | 内閣府「関東大震災報告書」・気象庁「関東大震災100年特設サイト」 |
| 活断層データ | 産業技術総合研究所 活断層データベース(fault_master) |
記事作成日:2026年4月5日 / 著者:防災DB編集部
本記事のデータは公表時点のものです。最新情報は各出典ページを参照してください。
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