館山市の災害リスクと歴史|関東大震災・台風・津波が重なる房総最南端の街

著者: 防災DB編集部 / 最終更新: 2026年4月


房総半島の最南端に位置する館山市は、東側に太平洋、西側に東京湾(館山湾)、南に洲崎の岬が突き出す三方海に囲まれた地形の街だ。防災DBの統合リスクスコアは91点(100点満点)、判定は「極めて高い」。洪水・津波・高潮・地震の4分野がいずれもスコア100点という、全国でも稀な多重リスク都市である。

NIEDのデータベースには684年(白鳳地震)にまで遡る116件の災害記録が存在する。1923年関東大震災では市域全体で壊滅的な建物被害と多数の死者を出し、2019年の台風15号(令和元年房総半島台風)では観測史上最強クラスの暴風で全壊64棟・半壊1,146棟・一部損壊3,437棟という甚大な被害を記録した。

この記事では防災DBの125mメッシュ解析データと公的記録を照合し、館山市に住む人・訪れる人が知っておくべき災害リスクを網羅的に解説する。


なぜ館山市はこれほどリスクが高いのか

三方を海に囲まれた地形の必然

館山市の地形的構造は、防災上の弱点を複数抱えている。北部には館山湾に面した沖積低地「北条平野」が広がり、この平野は古代からたびたび洪水と津波に見舞われてきた。市街地の大部分はこの低地に集中している。

内陸部は房総丘陵に続く丘陵地で、台地や海岸段丘が市南部に広がる。段丘地形は実は過去の大地震による地盤隆起の産物だ。1923年関東大震災では館山周辺で約2mの地盤隆起が観測されており、「モコモコした地形」が地震の繰り返しを示している。

洲崎灯台のある西端から太平洋に面した南部沿岸は、外洋に直接さらされる形状のため、津波・高潮・台風の暴風雨のすべてが正面から到達する。

気候的条件:台風の正面衝突地帯

館山市は「関東地方への台風上陸コース」の最前線に位置する。南海上で発達した台風は相模湾から伊豆半島方向に進む場合、または房総半島に直撃する形で、館山を最初に通過することが多い。2019年台風15号はその典型例で、館山の気象観測所では最大瞬間風速48.8m/s(南南西、9月9日午前2時31分)を記録した。これは館山の観測史上第1位更新である。


過去の主要災害

2019年:令和元年台風15号(房総半島台風)

2019年9月9日未明、台風15号は三浦半島付近を通過したのち房総半島に上陸。気象庁は「関東地方に上陸した台風としては1950年以降で最も強い」と位置づけた。

館山市への被害は甚大だった。最大瞬間風速48.8m/sという記録的暴風により、屋根瓦の飛散・建物倒壊が市内各所で発生。市内では9月9日早朝から全域で停電が発生し、最大で約24,700世帯が停電した(9月10日11時時点)。電力復旧には山間部の一部で1か月以上を要した地域もある。

館山市の建物被害(令和元年台風15号)

種別 棟数
全壊 64棟
半壊 1,146棟
一部損壊 3,437棟

半壊・一部損壊を合わせると4,500棟を超える被害で、多数の住民がブルーシートによる応急処置を余儀なくされた。農業ハウスの広範な破壊、漁港での船舶沈没も報告されており、基幹産業への打撃は長期にわたった。

1923年:関東大震災

1923年9月1日11時58分、マグニチュード7.9の関東地震が発生。震源に近い相模湾北西部に位置する館山市(旧安房郡一帯)は、東京以上に激しい揺れと火災・津波に見舞われた。

当時の記録(安房震災誌)は、旧安房郡内の各町村ごとに被害を詳述している。多くの地区で死者数十人・全壊数百棟という記録が残っており、最も被害が大きかった地区では死者230名、負傷者1,042名、全壊1,502棟(いずれも旧安房郡内の地区別数値)に達した。地震直後に発生した津波も沿岸低地を直撃し、元から脆弱な海岸集落に追い打ちをかけた。

この地震では地盤が約2m隆起したことも確認されており、洲崎周辺では海底が陸地として出現した箇所もあったとされる。

1703年:元禄地震

1703年12月31日、房総半島南部を中心に大規模な地震(元禄地震、推定M7.9〜8.0)が発生した。館山市地震対策基礎調査報告書によれば、当地域でも多くの家屋倒壊と死傷者が出ている。NIEDデータには数値として「-2」(多数・不明を示す符号)が記録されており、正確な死傷者数は特定困難だが、安房地方全体で1万人超が犠牲になったとする史料もある。

元禄地震は地盤隆起をもたらし、その痕跡は現在の館山の段丘地形にそのまま刻まれている。

古代〜近世の地震・津波の連続

館山市のNIEDデータには684年の白鳳(天武)地震に始まる記録が残る。主な地震・津波の系譜は次のとおりだ。

災害名 記録
684年11月 白鳳(天武)地震 安房震災誌に記録
818年8月 関東諸国地震 館山市地震対策基礎調査報告書
878年10月 (地震) 安房震災誌
1605年2月 慶長地震 津波被害
1627年9月 安房地方地震津波 館山市地域防災計画
1642年9月 安房国地震津波 館山市地域防災計画
1670年2月 房総地方地震津波 館山市地域防災計画
1703年12月 元禄地震 安房震災誌・基礎調査報告書
1775年10月 安房相模伊豆地方津波 館山市地域防災計画
1854年11月 安政東海地震 安房震災誌
1855年11月 安政江戸地震 安房震災誌
1923年9月 関東大震災 安房震災誌
1960年5月 チリ地震津波 館山市地域防災計画
1987年12月 千葉県東方沖地震 館山市地域防災計画
2019年9月 台風15号(房総半島台風) 全壊64・半壊1146

館山市には1,300年を超える有感地震・津波の記録が残っており、この地が繰り返し自然災害に見舞われてきた事実は歴史的に明白だ。


洪水・浸水リスク

主要13河川が刻む浸水ハザード

防災DBの125mメッシュ解析によると、館山市域には浸水ハザード区域として以下の13河川が特定されている。

河川名 ハザード区域メッシュ数 最大浸水深 平均浸水深
平久里川 874 3.0m 0.49m
丸山川 183 5.0m 1.59m
佐久間川 147 5.0m 1.22m
温石川 132 5.0m 1.50m
汐入川 116 3.0m 0.64m
瀬戸川 92 5.0m 1.78m
三原川 85 5.0m 1.49m
岡本川 82 5.0m 1.41m
その他5河川 〜5.0m

(出典:国土交通省洪水浸水想定区域データ、防災DB 125mメッシュ解析、2024年時点)

最も広いハザード区域を持つ平久里川は、市内を流れる二級河川で北条平野の農地・市街地に隣接する。浸水深3mというのは「一般的な1階天井まで」に相当し、逃げ遅れれば一階での生存は極めて困難になる水位だ。丸山川・佐久間川など5mクラスの想定がある河川では「2階床上まで水没する」ことが前提となる。

市の統合リスクスコアにおける洪水スコアは100点満点。これは全国トップクラスの洪水リスクを意味する。


津波・高潮リスク

8,472メッシュに及ぶ沿岸浸水域

防災DBの解析では、津波・高潮に係る浸水ハザード区域は8,472メッシュ(1メッシュ=125m×125m)に及ぶ。これは市域全体の広大な範囲がカバーされていることを意味する。

  • 津波スコア: 100点
  • 高潮スコア: 100点
  • 想定最大浸水深(下限値): 20m

千葉県の津波浸水想定図(南房総市・館山市版)では、最大クラスの津波が来た場合に市内沿岸の広範囲が浸水するシナリオが示されている。館山湾(鏡ヶ浦)は半円形の湾形状のため、津波が湾内に収束して増幅するリスクがある点も見逃せない。

1960年のチリ地震津波は太平洋を越えて館山にも到達した記録が残っており、遠地津波についても油断はできない。

浸水深の具体的イメージ

浸水深 状況
0.5m 膝上まで。歩行困難
1m 大人の腰上。車のエンジンが水没
3m 一般住宅の1階天井まで水没
5m 2階床上まで水没
10m以上 5階建て建物の3〜4階まで浸水

地震リスク

震度6弱以上の30年確率:平均31%

防災DBの125mメッシュデータ(2024年版、地震調査研究推進本部データ)によると、館山市域での30年以内に震度6弱以上が発生する確率は次のとおりだ。

  • 市域平均: 31.02%
  • 市域最大値: 85.36%

全国の確率的地震ハザードマップで30年間に30%以上という数値は「高リスク地域」に分類される。館山市の平均31%、最大85%という値は、同市が日本でも特に地震リスクの高い自治体であることを示している。

地表地盤のS波速度(AVS30)の市域平均は352.9m/sで、「普通地盤〜やや軟弱地盤」に相当する。北条平野の沖積低地では特に液状化リスクが高く、液状化スコアは60点(中程度〜高い)を記録している。

三浦半島断層群の影響圏

館山市に影響を与えると考えられる主な活断層は以下の通りだ。

断層名 想定M 30年発生確率
三浦半島断層群主部 武山断層帯 M6.5 8.39%
三浦半島断層群南部 M7.0 0.59%
三浦半島断層群主部 衣笠・北武断層帯 M6.7 0.006%
北伊豆断層帯 M6.8 0.0%

(出典:地震調査研究推進本部 J-SHIS、防災DBデータ、2024年時点)

三浦半島断層群の武山断層帯(30年確率8.39%)は、全国の活断層の中でも発生確率が高い部類に入る。加えて、館山市はフィリピン海プレートと北米プレートの境界部に近く、プレート間地震(相模トラフ沿いの巨大地震)の影響も免れない地域だ。


土砂災害リスク

丘陵部に広がる2,349メッシュの危険区域

防災DBの解析では、土砂災害ハザード区域に該当するメッシュが市域内に2,349個存在する。Gold層の統合スコアにおける土砂災害スコアは50点(中程度)、土砂災害ハザード区域数は5件が登録されている。

館山市内陸部には房総丘陵の末端が入り込んでおり、急傾斜地崩壊危険箇所や土石流危険渓流が点在する。台風や大雨時に、丘陵地と低地の境界部で土砂崩れが発生するリスクがある。

千葉県が公開している土砂災害警戒区域の情報は、千葉県土砂災害警戒区域一覧(館山市)で確認できる。


避難施設

館山市内の指定避難場所・一時避難ビルは81箇所が登録されている(国土数値情報 避難施設データ、2024年時点)。なお、広域避難場所(大規模火災時の避難先)の登録は現時点では確認されていない。

主な避難場所・一時避難ビル(一部)

施設名 住所 種別
中央公園 館山市北条1740 避難場所
北条小学校 館山市北条456 避難場所
城山公園周辺 館山市館山362 避難場所
安房神社 館山市大神宮508 避難場所
九重小学校 館山市安東3 避難場所
安房特別支援学校 館山市中里284-1 避難場所
イオンタウン館山 館山市八幡545-1 一時避難ビル
千葉県安房西高等学校 館山市北条2311-3 一時避難ビル
共立女子学園研修センター 館山市相浜82 一時避難ビル

重要:津波発生時には「高い場所・丘陵地・上層階」への垂直避難が最優先となる。北条平野の低地エリアでは、いずれの施設に向かうにも浸水リスクを考慮した経路確認が必須だ。

最寄りの避難所と経路は館山市公式のWeb版防災マップでインタラクティブに確認できる。


今からできる備え

公式防災情報へのアクセス

まずは以下の公式ページで自宅・職場周辺のリスクを確認することから始めてほしい。

  • 館山市 防災マップページ: https://www.city.tateyama.chiba.jp/anzen/page022356.html
  • 館山市 Web版防災マップ(インタラクティブ): https://www.city.tateyama.chiba.jp/anzen/hazardmap/index.html
  • 千葉県 津波浸水想定図(館山市含む、PDF): https://www.pref.chiba.lg.jp/kendosei/documents/tunami-24.pdf
  • 千葉県 土砂災害警戒区域(館山市): https://www.pref.chiba.lg.jp/kakan/sabou/keikai/tateyama.html

具体的なアクション3つ

  1. 浸水ハザード区域の確認: 自宅が浸水区域に含まれるか確認し、浸水深の目安(3m=1階天井)を家族と共有する
  2. 津波避難経路の事前確認: 館山市は津波到達が速い可能性があるため、地震発生後すぐに「自分の足で高台に向かえる経路」を実際に歩いて確認しておく
  3. 台風への備え: 2019年の教訓から、屋根・窓の耐風対策、最低2週間分の備蓄(電力・水・食料)が必要。停電が1か月に及ぶケースも想定する

館山市では危機管理課(TEL: 0470-22-3442)が各種防災パンフレット(家庭の備え・風水害・土砂災害・地震・津波の5種)を配布している。


データ出典

データ種別 出典
統合リスクスコア・125mメッシュ洪水・津波・地震・土砂データ 防災DB(bousaidb.jp)/ 国土交通省・地震調査研究推進本部データを基にカボシア株式会社が整備
災害事例データ(116件) 国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)自然災害データベース
活断層データ 地震調査研究推進本部 J-SHIS(2024年版)
避難場所データ 国土数値情報 避難施設(nlftp_p20)2024年
台風15号被害(2019年) 令和元年台風第15号被害報告(消防庁、第101報)、館山市公式発表
関東大震災被害 安房震災誌(1923年)、館山市地震対策基礎調査報告書
地形・地質情報 千葉県立中央博物館自然史研究、千葉県地質情報
ハザードマップURL 館山市役所市民生活部危機管理課(令和8年1月更新)

本記事のデータは防災DB(bousaidb.jp)が独自に収集・整備したものです。出典元のデータ更新により数値が変動する場合があります。正式な防災計画策定・BCP作成には自治体公式ハザードマップと専門家の助言を合わせてご利用ください。