山口県萩市は、防災DBが算出する統合リスクスコアが100点満点中85点に達し、全国的にも「極めて高い」リスクカテゴリに分類される都市だ。1983年(昭和58年)7月の豪雨災害では須佐・田万川地域で記録的な集中豪雨が発生し、萩市内だけで5名が命を落とした。この日付を忘れないために、萩市は7月23日〜29日を「萩市民防災週間」と定めている。阿武川・田万川をはじめとする複数の河川、日本海に開けた海岸線による津波・高潮リスク、そして山間部に広がる土砂災害ハザードゾーンが複合して萩市を高リスク地帯にしている。
防災DB 統合リスクスコア: 85/100(極めて高い)
| リスク種別 | スコア |
|---|---|
| 洪水リスク | 100/100 |
| 津波リスク | 100/100 |
| 高潮リスク | 100/100 |
| 地震リスク | 85/100 |
| 土砂災害リスク | 50/100 |
| 液状化リスク | 40/100 |
萩市の地形が生み出す複合リスク
萩市は山口県の北部、日本海に面する城下町だ。中国山地を源流に持つ阿武川(松本川・橋本川)が三角州を形成して日本海に注ぎ込む河口部に市街地が広がっている。この三角州地形こそが、萩市の水害リスクの構造的な根本にある。
市内面積の大半を山地・丘陵地が占め、急峻な地形が土石流・地すべりリスクを高める。市街地は阿武川三角州に集中しているため、河川氾濫が起きれば広範囲が一気に浸水する。さらに、日本海に面した長い海岸線は、地震津波や台風による高潮の脅威にも常にさらされている。
防災DBの125mメッシュ解析では、萩市内で洪水リスクを持つメッシュは21万9,377区画、津波・高潮リスクを持つメッシュは18万1,348区画に達する。市域の大部分が何らかの浸水リスクにさらされているという点は、見逃せない事実だ。
過去の主要災害
昭和58年7月豪雨(1983年7月23〜29日)— 萩市防災史最大の水害
萩市の防災史でもっとも語り継がれるのが、1983年(昭和58年)7月の豪雨だ。梅雨前線と台風の影響が重なり、山口県北部に記録的な大雨が集中した。気象庁の記録によれば、萩市須佐での1時間雨量は138.5mm(当時の観測史上最大値)、3時間雨量は301.5mmという凄まじい降水量に達した。
NIEDの災害データベースによると、この豪雨で萩市内だけで少なくとも5名が死亡、住家12棟全壊・10棟半壊の被害が記録されている。被害の大部分は土砂災害で、急峻な山地では樹木伐採跡地や若年生林地での山崩れ・がけ崩れが多発し、田万川・須佐川流域の集落を直撃した。
萩市はこの災害を風化させないため、7月23日〜29日を「萩市民防災週間」と定め、毎年防災意識啓発に取り組んでいる。近年も梅雨期に萩市を含む山口県北部では記録的な大雨が繰り返されており、1983年型の災害が再び起きる可能性を否定できない。
平成3年台風第17〜19号(1991年9月27日)
1991年9月27日、台風第17・18・19号が相次いで接近・上陸した影響で、萩市内では住家1,135棟に一部損壊の被害が発生した。これは全戸数の中でも相当な割合を占め、強風による屋根・壁の広範囲な損傷が特徴だった。
平成9年山口県北部地震(1997年6月25日)
1997年6月25日、萩市北西沖を震源とするM5.4の地震が発生した(気象庁名称「平成9年山口県北部の地震」)。NIEDデータでは、この地震で萩市内に住家全壊3棟・一部損壊176棟の被害が記録されている。阿武川沿いの軟弱地盤での被害が目立った。
平成11年の水害多発(1999年)
1999年は特に水害が集中した年だ。6月・7月・9月と複数回にわたって浸水被害が記録されており、6月28日と7月1日の大雨では各回とも床上浸水4棟・床下浸水300棟に上る被害が出ている。9月24日の台風第18号でも床上浸水1棟・床下浸水14棟を記録した。年間を通じた累積被害は、阿武川・田万川流域の低地住民に大きな負担を強いた。
令和元年8月豪雨(2019年8月26日)
2019年8月26日、前線に伴う大雨で萩市内に住家全壊1棟・一部損壊4棟のほか、床上浸水1棟・床下浸水11棟、河川被害1件が発生した。
令和2年7月豪雨(2020年7月6日)
2020年7月6日の「令和2年7月豪雨」では、萩市内で床下浸水10棟の被害が記録された。
過去の主要災害 年表
| 発生年 | 月日 | 災害名・種別 | 死者 | 全壊 | 半壊 | 一部損壊 | 床上浸水 | 床下浸水 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1983 | 7/23 | 昭和58年7月豪雨(風水害) | 5 | 12 | 10 | — | — | — |
| 1984 | 6/24 | 大雨(風水害) | — | — | — | — | — | 2 |
| 1985 | 6/21 | 洪水 | — | — | — | 2 | — | 13 |
| 1987 | 2/2 | 大雨(風水害) | — | — | — | 1 | — | 1 |
| 1987 | 8/30 | 台風第12号 | — | — | — | — | — | — |
| 1991 | 7/4 | 大雨 | — | — | — | — | — | 2 |
| 1991 | 9/27 | 台風第17〜19号 | — | — | — | 1,135 | — | 2 |
| 1993 | 7/27 | 台風第5・6号(洪水) | — | — | — | 1 | — | 2 |
| 1993 | 8/9 | 梅雨前線・台風 | — | — | 1 | — | — | — |
| 1997 | 6/25 | 山口県北部地震(M5.4) | — | 3 | — | 176 | — | — |
| 1997 | 7/26 | 台風第9号 | — | — | — | — | 13 | 11 |
| 1999 | 6/28 | 大雨 | — | 1 | — | 4 | 4 | 300 |
| 1999 | 7/1 | 大雨 | — | 1 | — | 4 | 4 | 300 |
| 1999 | 9/21 | 大雨 | — | — | 1 | 2 | 26 | 350 |
| 1999 | 9/24 | 台風第18号 | — | — | — | — | 1 | 14 |
| 2000 | 9/9 | 大雨 | — | — | — | — | — | 2 |
| 2001 | 7/11 | 大雨 | — | — | 1 | — | — | — |
| 2004 | 9/6 | 台風第18号 | — | — | — | 300 | — | — |
| 2019 | 8/26 | 前線大雨 | — | 1 | — | 4 | 1 | 11 |
| 2020 | 7/6 | 令和2年7月豪雨 | — | — | — | — | — | 10 |
出典: 国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)自然災害情報室・萩市地域防災計画資料編
なぜ萩市は洪水に弱いのか
萩市の洪水リスクを最も高めているのが阿武川だ。中国山地を源に持つ阿武川は市街地中心部を貫流し、全長約81kmの二級河川として日本海に注ぐ。防災DBの125mメッシュ解析では、阿武川の浸水リスクメッシュ数は1,304区画に達し、想定最大浸水深は10.0m——3〜4階建て相当の高さに及ぶ。
河川別・浸水リスクデータ(防災DB 125mメッシュ解析):
| 河川名 | リスクメッシュ数 | 想定最大浸水深 | 平均浸水深 |
|---|---|---|---|
| 阿武川 | 1,304区画 | 10.0m | 1.9m |
| 田万川 | 464区画 | 5.0m | 3.0m |
| 島地川 | 306区画 | 10.0m | 3.1m |
| 三隅川 | 377区画 | 5.0m | 1.7m |
| 深川川 | 319区画 | 5.0m | 1.3m |
| 明木川 | 154区画 | 5.0m | 2.8m |
浸水深のイメージ:
- 0.5m: ひざ上まで(単独歩行が困難になる)
- 1m: 腰まで(自力避難の限界)
- 3m: 1階天井まで(垂直避難が必須)
- 5m: 2階床上まで(上層階または高台への避難が必要)
- 10m: 3〜4階相当(建物の高さでは対応できないレベル)
阿武川三角州に広がる市街地は、河川氾濫が発生すると急速に浸水が広がる地形だ。山口県が作成した洪水浸水想定区域図(想定最大規模)では、旧市街地の一部で3m以上の浸水が想定されている。
土砂災害リスク:市内22,267メッシュが危険ゾーン
防災DBの解析では、萩市内で土砂災害リスクを持つ125mメッシュが22,267区画に達する。公式ハザードデータでは土砂災害ハザード区域数は75区域が登録されており、山間部の集落背後に迫る急斜面が多い。
特に大字・川上、佐々並、明木、弥富、吉部など内陸山間部では、梅雨期・台風期の豪雨で山崩れ・土石流が発生するリスクが高い。1983年豪雨災害の主要な被害原因もこの山間部の土砂災害だった。最新の土砂災害警戒区域(イエローゾーン・レッドゾーン)は萩市公式ハザードマップで確認できる。
地震・活断層リスク
萩市は内陸に大規模な活断層が少ないものの、南方の周防灘を震源とする地震リスクは軽視できない。
周辺の主要活断層(防災DBデータ・地震調査研究推進本部):
| 断層名 | 想定規模 | 30年発生確率 |
|---|---|---|
| 周防灘断層帯(主部区間) | M7.0 | 約2.9% |
| 周防灘断層帯(秋穂沖断層区間) | M6.6 | 約0.75% |
周防灘断層帯はM7.0が想定される活断層で、山口県南部〜北九州にかけて影響が及ぶ。30年以内の発生確率2.9%は、地震調査研究推進本部の基準では「やや高い」に分類される。
地震動確率(防災DB 125mメッシュ解析・確率論的地震動予測地図2024年版):
- 30年以内に震度5弱以上: 平均確率23.68%、最大86.68%
- 30年以内に震度6弱以上: 平均確率1.01%、最大15.2%
平均地盤Vs30は652m/sと比較的硬い地盤が多いが、阿武川三角州・氾濫原の軟弱地盤での液状化リスクも考慮が必要だ(液状化リスクスコア40/100)。
津波・高潮リスク
萩市は日本海に面するため、海溝型地震による津波リスクは太平洋側と比べると低い。しかし、日本海側でも1983年日本海中部地震(M7.7)・1993年北海道南西沖地震(M7.8)のような大規模地震が発生しており、山口県北部の沿岸には津波が到達した記録がある。
防災DBの解析では、萩市の津波・高潮リスクメッシュは21,646区画、想定最大浸水深は4.0mに達する。津波スコア100/100・高潮スコア100/100は、萩市の沿岸低地が台風性高潮と地震津波の双方に対して脆弱であることを示している。
萩市が公開している津波・高潮ハザードマップ(PDF)で、浸水予想区域の位置を自宅と照らし合わせて確認してほしい。
萩市内の主な避難場所(142か所)
萩市には国土数値情報に登録された避難場所が142か所ある(主に「予定避難場所」として指定)。
| 施設名 | 住所 |
|---|---|
| 中央公園 | 山口県萩市江向552-2 |
| 堀内体育館 | 山口県萩市大字堀内127番地6 |
| 亨徳寺 | 山口県萩市大字北古萩町66番地 |
| 住の江保育園グラウンド | 山口県萩市浜崎町240 |
| アトラス萩店駐車場 | 山口県萩市大字御許町42番地1 |
| 三見小・中学校 | 山口県萩市三見3523番地1 |
| 佐々並小学校グラウンド | 山口県萩市佐々並2684 |
| むつみ小学校 | 山口県萩市大字吉部上3192番地 |
避難場所は災害種別によって使用できる施設が異なる。洪水時・土砂災害時・津波時それぞれの指定避難所を事前に確認しておくことが重要だ。詳細は萩市公式ハザードマップを参照してほしい。
今からできる備え
萩市公式の防災情報:
- 萩市防災危機管理課(Tel: 0838-25-3808)
- 各種ハザードマップ一覧
- 河川洪水ハザードマップ(PDF)
- 津波・高潮ハザードマップ(PDF)
- 萩市総合アプリ「はぎなび」でも防災情報にアクセス可能
すぐに実施すべき3つのこと:
1. 自宅周辺のハザードマップを確認する — 洪水浸水区域・土砂災害警戒区域・津波浸水区域の重なりを把握する
2. 避難場所・避難ルートを2パターン確認する — 洪水時と土砂災害時では最適な避難先が異なる
3. 避難タイミングを家族で決めておく — 「大雨警報が出たら」「避難指示が出たら」など、行動基準を事前に明文化する
萩市では7月23日〜29日の「萩市民防災週間」に合わせて防災訓練や情報更新が行われる。この時期に防災計画を見直す習慣をつけることを防災DB編集部は推奨する。
データ出典
| データ | 出典 | 時点 |
|---|---|---|
| 統合リスクスコア・メッシュ別浸水リスク | 防災DB(bousaidb.jp) | 2024〜2025年 |
| 過去の災害事例 | 国立研究開発法人 防災科学技術研究所(NIED)自然災害情報室 | 収録年代各種 |
| 活断層・地震動確率 | 地震調査研究推進本部 確率論的地震動予測地図2024年版 | 2024年 |
| 避難場所 | 国土数値情報 避難施設データ(国土交通省) | 2023年度版 |
| ハザードマップ | 萩市防災危機管理課(萩市公式ウェブサイト) | 2024〜2025年確認 |
| 昭和58年7月豪雨詳細 | 気象庁災害時気象報告・萩市公式ウェブサイト | — |
記事作成: 防災DB編集部 / 最終更新: 2026年4月
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