山口県光市の災害リスク完全ガイド|洪水・津波・高潮が重なる周防灘沿岸の実態

山口県光市は、防災DBの統合リスクスコアで83点(極めて高い)を記録する、全国でも屈指の複合リスク地帯だ。洪水・津波・高潮の三重リスクがそれぞれ満点(100点)という事実は、この街が抱える構造的な脆弱性を端的に示している。

2018年7月の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)では477棟が浸水し、土砂災害は34棟に及んだ。市内532人が避難所に逃れるなか、この海岸都市の限界が露わになった。光市の地形を知れば、なぜこれほどのリスクが集中するのかが見えてくる。


なぜ光市はこれほど災害に弱いのか

光市は山口県南東部、周防灘(すおうなだ)に面した人口約5万人の沿岸都市だ。面積の大半を山地・丘陵が占め、可住地は島田川の沖積平野と、虹ヶ浜・室積の海岸平野に限られる。

地形的な弱点は三つある。

第一に、山地が海岸線に迫っているため平野が極端に狭い。島田川の流域平野は幅数百メートル〜1km程度しかなく、上流での集中豪雨が短時間で河口付近の市街地に到達する。島田川は光市の中心市街地を貫流する一級河川で、防災DB解析では最大浸水深5m・延べ888メッシュ(約14km²相当)に及ぶ洪水リスクが確認されている。5mは2階の天井まで水が来る深さだ。

第二に、周防灘という閉鎖的な内海に面している。周防灘は陸地に囲まれた湾状の海域で、台風が九州の西側を通過する際に強い南西風が吹くと、海水が押し込まれて高潮が発生しやすい。防災科学技術研究所も光市の高潮ハザードマップを「典型事例」として研究資料に採用しているほど、この地域の高潮リスクは広く知られている。

第三に、南海トラフ地震による津波の影響を受ける位置にある。瀬戸内海は島々が津波エネルギーを減衰させるため太平洋岸より被害は限定的とされるが、光市の沿岸部(室積・牛島・光井・浅江)には山口県が浸水想定区域を設定済みで、最大浸水深5mという数値はこの地域が軽視できないことを示している(防災DB)。


過去の主要災害:記録が語る光市の被災歴

2018年7月:平成30年7月豪雨(西日本豪雨)

光市の近代災害史の中で最大規模の水害。2018年7月5日〜8日にかけて、停滞した梅雨前線により光市内の累積雨量は456mmに達した。

被害(光市公式報告書より):
- 浸水被害:477棟(床上浸水222棟、床下浸水255棟)
- 土砂災害:34棟に被害(土砂が建物に到達・損壊)
- 最大避難者:532人

西日本豪雨全体では死者・行方不明者230名超という平成最悪の水害となった。光市内では人的被害の報告は確認されていないが、住宅被害の規模は市の対応能力の限界に迫るものだった。島田川水系の各支川が同時に増水したことが、被害を広範囲に拡大させた。

出典:平成30年7月豪雨災害報告書 - 光市

2022年9月:島田川氾濫警戒情報

2022年9月18日、気象庁が島田川水系で「氾濫警戒情報」を発表。大規模な氾濫には至らなかったものの、主要河川が警戒水位を超えるリスクが現実のものとなった。

昭和期の台風災害

1961年の第二室戸台風では、周防灘沿岸一帯で台風の高潮により深刻な被害が発生した。光市を含む山口県南東部は高潮の影響を直接受ける地理的位置にある。山口県の台風被害記録(下関地方気象台)には、昭和から平成にかけて周防灘沿岸を繰り返し襲った台風の被害が収録されている。


洪水リスクの詳細:島田川が市街地を脅かす

防災DBの125mメッシュ解析で確認された光市内の主要河川別リスクは以下のとおりだ。

河川名 リスクメッシュ数 最大浸水深 浸水継続時間(最大)
島田川 888 5m 72時間(3日間)
切戸川 173 5m 72時間(3日間)
田布施川 362 3m 72時間
灸川 220 3m 72時間
大内川 98 3m 72時間
土穂石川 83 3m 72時間

浸水深の目安:
- 0.5m:床下浸水。玄関・車庫に浸水開始
- 1m:床上浸水。通常の自動車は動けなくなる
- 3m:1階がほぼ水没。2階への垂直避難が必要
- 5m:2階の天井近くまで浸水。2階にいても危険

島田川と切戸川が最大5mという値は、想定し得る最大規模の降雨(数百年に一度)での浸水想定だが、2018年のような豪雨でも相当の浸水が発生することは実証済みだ。

光市では山口県が島田川の洪水浸水想定区域図(上流部・下流部)を作成・公表している。市のウェブサイトから確認できる。


土砂災害リスク:丘陵地が市街に迫る

光市のリスクスコアにおける土砂災害部門のスコアは50点で、土砂災害ハザード区域数は75箇所に達する。防DBの125mメッシュ解析では、土砂災害リスクを持つメッシュが19,421メッシュ(約305km²)にのぼる。

市面積の多くが山地・丘陵であり、急傾斜地が集落・住宅地のすぐそばに迫っている。2018年豪雨で34棟への土砂被害が発生したように、集中豪雨と急傾斜地の組み合わせは現実的な脅威だ。

特に注意が必要なエリアは、室積・牛島地区の背後斜面、伊保木地区周辺、立野・小周防の山際などだ。光市では地区別の土砂災害ハザードマップ(PDFおよびWEB版)を公開している。


地震リスク:周防灘断層帯がそこにある

光市の地震リスクスコアは85点。これは全国平均と比較しても高水準だ。

防災DBの2024年データによると、光市域内の各メッシュにおける地震確率は:
- 震度6弱以上30年確率:平均8.42%、最大41.17%
- 震度5弱以上30年確率:平均68.74%、最大94.90%

最も警戒すべき活断層は周防灘断層帯(主部区間)だ。想定マグニチュードM7.0、30年発生確率2.93%(地震調査研究推進本部)と、主要活断層の中でも高い活動確率が確認されている。

光市周辺の主要活断層(防災DB):

断層名 想定M 30年発生確率
周防灘断層帯(主部区間) 7.0 2.93%
周防灘断層帯(秋穂沖断層区間) 6.6 0.75%
広島湾-岩国沖断層帯 6.9 0.37%
岩国-五日市断層帯(岩国断層区間) 7.0 0.28%

周防灘断層帯は光市の沿岸部のすぐ沖に位置しており、活動した場合には揺れだけでなく津波を引き起こす可能性がある。過去に周防灘では1024年の「長門・周防大地震」(推定M7以上)が記録されており、この地域の地震活動の歴史は長い。

また、市内の平均Avs30(表層地盤のS波速度)は429.5m/sと比較的硬い地盤を示しているが、沿岸の沖積地ではこの値が低下し、揺れが増幅する可能性がある。液状化スコアは20点(相対的に低い)ながら、島田川河口部や海岸沿いの埋立地では注意が必要だ。


津波・高潮リスク:瀬戸内海でも油断できない

津波

光市の津波リスクスコアは100点(最大)。防災DBの沿岸メッシュ解析では、光市域に8,193メッシュ(約128km²)の津波・高潮リスクメッシュが確認されている。

山口県が2013年12月に公表した南海トラフ等による津波浸水想定では、室積・牛島の東部沿岸と、光井・島田・浅江の西部沿岸に浸水域が設定されている。最大浸水深は5m(防DB)。

瀬戸内海は豊後水道・紀伊水道を通じて外洋の津波が入ってくるため、完全に安全とは言えない。特に光市は周防灘の奥に位置するものの、周防灘断層帯が直下で活動した場合、局所的な津波が短時間で到達する可能性がある。

高潮

高潮スコアも100点(最大)。台風上陸・接近時に周防灘で高潮が発生すると、光市の沿岸低地(虹ヶ浜・室積海岸周辺)が浸水リスクにさらされる。防災科学技術研究所が光市の高潮ハザードマップを研究事例として取り上げていることは、この地域の高潮リスクの深刻さを示している。


避難施設一覧(光市内)

光市には59箇所の避難場所・避難施設が整備されている(防災DB、国土数値情報より)。主な避難所を以下に示す。

施設名 住所 施設種別
あさえふれあいセンター(光隣保館) 浅江7-4-23 避難所・避難施設
スポーツ公園 光井110 避難所・避難施設
三井小学校体育館 三井5-9-1 避難所・避難施設
上島田小学校体育館 上島田3-9-1 避難所・避難施設
光井中学校体育館 光井7-18-1 避難所・避難施設
光市教育委員会 光井9-18-3 避難所・避難施設
光市勤労者総合福祉センター 島田4-14-3 避難所
勤労者体育センター 浅江7-14-1 避難所・避難施設
テクノキャンパス研修センター 浅江字潮音寺2260-1 避難所・避難施設
伊保木公民館 室積村858 避難所・避難施設

注意点:洪水・高潮・津波が発生している、または発生のおそれがある場合、沿岸部や河川近くの避難所への移動が危険になることがある。状況に応じて高台への避難を優先し、最新の避難指示情報に従うこと。

最寄りの避難所と危険区域は光市の各種ハザードマップで確認できる。


今からできる備え

光市の公式防災情報(必ず確認を)

  • 光市 防災情報トップ:https://www.city.hikari.lg.jp/soshiki/2/bosai/kurashi/1/
  • 各種ハザードマップ(洪水・高潮・土砂・津波・WEB版):https://www.city.hikari.lg.jp/soshiki/2/bosai/kurashi/1/12800.html
  • 津波ハザードマップ詳細:https://www.city.hikari.lg.jp/soshiki/2/bosai/kurashi/1/2005.html

優先順位の高い備え

1. ハザードマップで自宅のリスクを確認する
WEB版ハザードマップでは、洪水・高潮・土砂・津波の各リスクを重ね合わせて自宅の位置を確認できる。まず自宅が何のリスクエリアに該当するかを把握することが第一歩だ。

2. 避難経路を複数確保する
島田川・切戸川沿いの低地では、大雨時に道路が冠水して移動が困難になる。高台への避難経路を事前に複数確認しておくこと。特に夜間・深夜の急な増水に備え、昼間のうちに地域の危険箇所を歩いて確認しておくことを推奨する。

3. 早期避難を習慣化する
2018年豪雨の教訓は「早めの避難」に尽きる。「まだ大丈夫」という判断が命取りになる。光市に大雨・洪水・高潮・土砂災害警報・津波注意報が出たら、躊躇せず避難行動を開始すること。

4. 非常用持ち出し袋の準備
水・食料(3日分以上)、充電バッテリー、薬、保険証のコピー、現金などを常時準備しておく。島田川が氾濫した場合、自宅からの脱出に使える時間は想像以上に短い。

5. 防災情報アプリの登録
NHK防災アプリ、Yahoo!防災速報などで光市の気象・避難情報を受信できるよう設定しておく。深夜の急な気象変化にも対応できる体制を整えること。

防災DBでは光市を含む全国市区町村のリスクデータを無料・登録不要で閲覧できる。自宅周辺の125mメッシュ単位のリスクを確認したい場合は防災DBをご活用ください。


データ出典

データ種別 出典
統合リスクスコア・洪水/津波/高潮/土砂/地震データ 防災DB(bousaidb.jp)(国土交通省・内閣府・防災科学技術研究所等の政府公開データを元に独自集計)
過去の災害被害データ 防災科学技術研究所 自然災害データ室
活断層データ 地震調査研究推進本部(政府地震調査委員会)「全国地震動予測地図2024年版」
地震確率データ 防災DB(J-SHIS 2024年版ベース)
避難施設データ 国土数値情報 避難施設データ(光市)
平成30年7月豪雨被害 光市 平成30年7月豪雨災害報告書
ハザードマップ情報 光市 各種ハザードマップ
高潮リスク事例 防災科学技術研究所 防災基礎講座(光市高潮ハザードマップ掲載)
島田川洪水浸水想定区域図 山口県
津波浸水想定 山口県(平成25年12月公表)

この記事は2024年時点のデータに基づいて作成されています。ハザードマップや避難情報は随時更新されるため、最新情報は光市公式サイトでご確認ください。

著者:防災DB編集部