この記事は、企業の総務・人事・リスク管理担当者向けに、企業防災と事業継続計画(BCP)の全体像を、実務で使える形で一気通貫でまとめた体系的なガイドです。防災DBでは、拠点住所を入力するだけで6種類の災害リスクを125mメッシュ単位で無料診断できます。本記事を読み終えると、自社の防災計画を1人で書き始められる状態になります。

「BCPを作れと言われたけど、何から始めればいいかわからない」
「古いBCPが棚に眠っていて、実態に合わない」
「大企業向けの雛形しか見つからず、中小企業の総務には使いづらい」

このような悩みを持つ担当者のために、本ガイドは机上の一般論ではなく、自社拠点の実データに基づく計画の作り方に徹底して焦点を合わせています。

この記事でわかること

  • 企業防災・BCP・事業継続力強化計画の違いと全体像
  • 自社拠点の災害リスクを無料で診断する方法(6災害を一括評価)
  • 災害種別ごとの具体アクション(地震・洪水・津波・土砂・台風)
  • 安否確認・備蓄・訓練・見直しの実務
  • 無料で使える雛形・テンプレートと公的機関のデータソース

💡 本記事はピラーガイドです。各テーマの実務詳細は、記事内に配置した専門記事リンクから掘り下げられます。


第1章:企業防災の全体像(基礎編)

1-1. BCP・防災計画・事業継続力強化計画の違い

混同されがちな3つの概念を整理します。

名称 根拠 主眼 対象企業
BCP(事業継続計画) ISO22301(国際規格) 事業の継続・早期復旧 大企業〜中小企業(自主策定)
防災計画 災害対策基本法 物的被害・人的被害の最小化 全企業(作成推奨)
事業継続力強化計画 中小企業強靭化法 中小企業の事業継続力の構築 中小企業(中小企業庁認定制度)

BCP は「事業が止まらない仕組み」を設計する国際的なフレームワークです。代替拠点・業務優先順位・RTO(目標復旧時間)といった概念を扱います。

防災計画 は「人命と資産を守る」ための直接的な対策を扱います。避難計画・備蓄・安否確認が中心です。

事業継続力強化計画 は中小企業庁が2019年に開始した認定制度で、認定を受けると日本政策金融公庫の低利融資・信用保証の特例・補助金加点・税制優遇(防災・減災投資に対する特別償却)などのメリットがあります。中小企業にとって、最もハードルの低い入口として位置づけられています。

3者は対立する概念ではなく、階層的に重なり合う関係にあります。防災計画が土台となり、BCPがその上に事業継続視点を加え、事業継続力強化計画は中小企業向けに簡素化した認定制度、と理解するとよいでしょう。

本記事では、これら3者を総称して「企業防災」と呼び、統合的な視点で解説します。

📖 詳細版:事業継続力強化計画の申請手順・記入例・税制優遇活用法は事業継続力強化計画 完全申請ガイドで専門的に解説しています。

1-2. なぜ今、企業防災が必須なのか

2026年現在、企業防災の重要性はかつてないほど高まっています。理由は大きく3つあります。

1つめ:災害頻度の増加

気象庁のデータによると、1時間降水量50mm以上の短時間強雨の発生回数は、観測開始の1976年からの40年余りで増加傾向にあります。気候変動の影響により、従来の想定を超える豪雨が各地で発生しており、浸水想定区域も拡大しています。

地震についても、南海トラフ地震の30年以内発生確率は70〜80%首都直下地震(M7級)の30年以内発生確率は約70%と、政府の地震調査研究推進本部が公表しています(2025年時点の評価)。これは「いつか」ではなく「近い将来」起きる前提で備える段階にあることを意味します。

2つめ:法令・取引先からの要請

上場企業では気候関連財務情報開示(TCFD・SSBJ)が実質義務化されつつあり、サプライチェーン全体のBCP策定状況が開示対象に含まれつつあります。大企業と取引を持つ中小企業は、調達要件として「BCP策定済み」を求められるケースが増えています。

介護事業者では2024年4月から感染症BCP・自然災害BCPの策定が義務化されました(介護報酬改定)。今後も業界ごとの法令対応が広がると予想されます。

3つめ:人材リスク

災害時に事業が止まり、給与が払えなければ従業員は離職します。特に人手不足が深刻な中小企業にとって、災害は単なる物的被害ではなく人材流出の引き金になります。企業防災は「人を守る仕組み」でもあり、その効果は平時の従業員エンゲージメントにも表れます。

1-3. 中小企業が陥りがちな3つの落とし穴

現場で頻出する失敗パターンを事前に把握しておきましょう。

落とし穴①:「大企業向けテンプレをそのまま使う」

インターネット上のBCPテンプレートの多くは大企業向けに作られており、中小企業には「代替拠点」「海外バックアップ」「大規模災害対策本部」など実態に合わない項目が並びます。形骸化した書類は、いざというとき使われません。

対策は、自社の規模と業種に合ったミニマルな構成から始めること。コア業務3〜5個に絞り、A4で5〜10ページの軽量版BCPを作るほうが、100ページの完璧な書類より10倍機能します。

落とし穴②:「書類を作って満足してしまう」

BCPは「作る」より「運用する」ほうが100倍難しい、とよく言われます。訓練しないBCP、見直さないBCPは、災害時に機能しません。

対策は、年次カレンダーに訓練を組み込むこと。月1回の安否確認訓練、年1回の総合訓練、年1回の見直し会議を、就業規則や経営会議のスケジュールに組み込んでしまいます。

落とし穴③:「災害の種類ごとに別々の計画を作る」

地震用、水害用、台風用、感染症用……と災害種別ごとに計画を分けると、現場が混乱します。企業防災は統合的な一つの計画として設計すべきです。災害の種類ごとの違いは、対応フローの枝分かれとして吸収します。


第2章:拠点のリスクを知る(診断編)

防災計画の出発点は、自社拠点が直面する具体的なリスクを数値で把握することです。机上の一般論では、本当に使える計画にはなりません。

2-1. 3分でできる拠点リスク診断

防災DBのトップページで拠点住所を入力すると、6種類の災害リスクが125mメッシュ単位で一括評価されます。

  • 地震(震度6弱以上の30年発生確率・地盤増幅率)
  • 洪水(想定浸水深・継続時間・家屋倒壊等氾濫想定区域)
  • 津波(想定浸水深)
  • 土砂災害(警戒区域・特別警戒区域)
  • 高潮(沿岸部の想定浸水深)
  • 液状化(地盤Vs30・地震時の液状化指数)

登録不要・完全無料で、総合リスクスコア(0〜100)と各災害の個別スコアが出力されます。API・MCPサーバーも無料で公開しており、社内の総務システムや基幹システムに組み込むことも可能です。

この診断結果は、防災DBの基盤データである政府オープンデータ(J-SHIS、国土数値情報、国勢調査、災害事例データベース DIL、自然災害伝承碑など)から自動生成されており、算出ロジックも完全公開されています。

2-2. 6つの災害リスクの見方

診断結果を読み解くための基礎知識を整理します。

地震リスク

重要指標は「震度6弱以上の30年発生確率」。全国平均は約6%ですが、首都圏・静岡・愛知・高知など太平洋側の一部地域では50%を大きく超えます。都道府県別の傾向は東京都の地震リスクなどの記事で詳しく見ることができます。

地盤増幅率(Vs30)も同時に確認します。軟弱地盤(Vs30<200m/s)の地域では液状化リスクも併発するため、建物の耐震化だけでは不十分で、地盤改良や液状化対策が必要になることがあります。

洪水リスク

想定浸水深(L1:計画規模/L2:想定最大)と、浸水継続時間を確認します。

  • 浸水深0.5m:大人の膝上。歩行避難が困難になり始める
  • 浸水深1m:大人の腰。歩行避難ほぼ不可能、1階への床上浸水
  • 浸水深3m:1階が完全水没
  • 浸水深5m:2階も浸水(木造2階建てなら屋根しか出ない)
  • 浸水深10m:3階建て住宅の屋根も超える

継続時間が72時間(3日)を超える地域では、事業の一時停止は避けられません。復旧までに1週間以上を要する想定もあります。

津波リスク

沿岸部の事業所では必須確認項目です。想定浸水深2m以上では歩行避難が不可能になるため、鉛直避難(建物内の上階への避難)と水平避難(高台への避難)の両方を計画する必要があります。

津波警報は最初の1回だけで終わりではなく、第二波・第三波が最大になるケースも多くあります。警報解除まで絶対に戻らないことが鉄則です。

土砂災害リスク

土砂災害警戒区域(イエローゾーン)・特別警戒区域(レッドゾーン)の指定の有無を確認します。特別警戒区域内の建物は、土石流・地すべりによる全壊リスクが高く、事業所立地としては避けるべきゾーンです。

前兆現象(山鳴り・湧き水の濁り・小石の落下・木の根が切れる音)に気づいたら、警報を待たずに即避難が原則です。

高潮リスク

台風接近時の沿岸部で特に重要です。気圧低下による吸い上げ効果と強風による吹き寄せ効果が重なると、通常の満潮位から2〜4m上昇することがあります。東京湾・大阪湾・伊勢湾・有明海の湾奥部は、地形的にリスクが高い地域です。

液状化リスク

地震時に地盤が液体状に変化する現象です。軟弱地盤(Vs30<200m/s)・旧河道・埋立地で発生しやすく、建物の傾斜・倒壊、ライフライン(上下水道・ガス・電気)の寸断を引き起こします。液状化だけで建物が倒壊することは少ないものの、配管・基礎への被害で事業継続が困難になるケースがあります。

2-3. 本社・支社・工場でリスクは全く違う

ひとつ重要な事実として、同じ都道府県内でもリスクプロファイルは全く違うということを知っておくべきです。

たとえば東京都内でも、荒川区・墨田区・江東区などの東部低地帯は洪水浸水深が最大10mに達する一方、武蔵野台地上に位置する地域は洪水リスクがほぼなく、地震動も相対的に低いという傾向があります。

複数拠点を持つ企業は、防災DBのMCPサーバーが提供する compare_locations ツールで複数拠点を一括比較できます。本社・支社・工場・倉庫それぞれで、異なる災害への備えが必要です。サプライチェーン上の重要拠点(原料供給元・製造委託先・物流倉庫)まで視野を広げると、事業継続の観点でさらに実践的な評価ができます。


第3章:企業防災計画を作る(策定編)

拠点のリスクを把握したら、次は計画の策定です。

3-1. 策定の4ステップ

実務的な策定手順は以下の4ステップです。

ステップ1:拠点リスク診断

第2章の通り、防災DBで無料実施します。本社・主要拠点・重要取引先まで、15分あれば一通りのリスクプロファイルが揃います。

ステップ2:想定シナリオの作成

拠点ごとに、「発生確率の高いシナリオ」と「被害が深刻なシナリオ」の2つを想定します。

たとえば本社が東京都千代田区にあれば、「首都直下地震・震度6強・発災24時間後までの対応」「荒川氾濫による2〜5日間の業務停止」「大型台風接近時の計画運休対応」の3シナリオが現実的です。

ステップ3:優先業務の特定とRTO/RPO設定

すべての業務を同時に復旧するのは不可能です。売上の80%を生む20%のコア業務を特定し、それぞれに以下を設定します。

  • RTO(目標復旧時間):「この業務を発災後◯時間以内に復旧させる」
  • RPO(目標復旧時点):「◯時間前までのデータを復旧の対象にする」

中小企業の場合、コア業務は3〜5個に絞るのが現実的です。たとえば製造業なら「受注処理」「生産指示」「出荷手配」、ITサービス業なら「顧客向けサービス稼働」「決済処理」「問い合わせ対応」など。

ステップ4:対応手順書の作成

発災前(平常時)・発災時(初動24時間)・発災後(復旧期)の3フェーズで、誰が・いつ・何をするかを具体的に書き出します。

肩書きではなく個人名で責任者を指名するのがポイントです。「総務部長」ではなく「山田太郎(代理:佐藤花子)」と明記することで、災害時の迷いが減ります。

3-2. 災害種別ごとの具体アクション

シナリオごとに時系列でアクションを設計します。以下は一般的なテンプレートです。

地震

  • 発災直後(0〜10分):机下退避・落下物からの身を守る・出口確保
  • 発災後10分〜1時間:従業員の安否確認・火元確認・建物点検(壁・天井・配管)
  • 発災後1〜24時間:避難判断(建物の安全性・二次災害リスク)・取引先への状況連絡・重要データの保全
  • 発災後24時間〜1週間:段階的業務再開の判断・代替手段の発動

📖 詳細版:耐震診断の進め方・地震保険・発災72時間の時系列対応・全国都道府県ランキングは地震に備える企業防災で解説しています。

洪水・台風

  • 気象警報発令前(72時間前):台風予報の注視・重要機器の高所移設準備
  • 大雨警報発表時(数時間前):事前の早期退社指示・備蓄確認
  • 浸水予想1m以上:業務停止と全員退避(早期避難の原則)
  • 浸水中:従業員の安否確認(事業所外にいる場合も含む)
  • 復旧期:被害記録・保険請求・段階的な業務再開

📖 詳細版:浸水深別の避難タイミング判断・止水板/土嚢の設置・水害保険・警戒レベル別対応フローは水害・洪水・台風に備える企業防災で専門的に解説しています。

津波

  • 地震発生時点で沿岸部は即時避難。高台または高層階への移動が命を救います。
  • 津波警報は解除まで絶対に戻らない。第二波・第三波が最大になるケースも想定内です。

📖 詳細版:到達時間の計算・鉛直避難と水平避難の使い分け・沿岸企業の事例は津波に備える企業防災で解説しています。

土砂災害

  • 土砂災害警戒情報発表時:警戒区域内の事業所は業務停止
  • 前兆現象(山鳴り・湧き水の濁り・小石の落下)があれば警報を待たずに即避難

停電(災害起因・需給逼迫)

📖 詳細版:UPS/非常用発電機/蓄電池の使い分け・72時間電源計算・業務縮退計画は停電に備える企業防災で解説しています。近年は地震・台風だけでなく需給逼迫による停電リスクも高まっています。

3-3. 安否確認システムの選び方

災害時に従業員の安否を迅速に確認する仕組みは必須です。発災直後は電話・メールが輻輳(ふくそう)して繋がらなくなるため、専用の安否確認システムを導入する企業が増えています。

代表的なサービスには、セコム安否確認サービス、トヨクモ安否確認サービス2、ALSOKの安否確認システムなどがあります。選定のポイントは以下です。

  • 配信チャネル:SMS・メール・アプリ・LINEなど複数経路で到達率を高める
  • 初動時間:発災検知から配信開始までが数分以内
  • 集計機能:管理者が即時に未回答者を特定できる
  • コスト:従業員50名規模で月1〜3万円が相場

システムは手段であり、重要なのは運用ルールです。月1回の訓練配信を必ず実施し、返信率90%以上を維持することが目標です。返信率が下がっている場合は、従業員への周知不足・連絡先の古さ・訓練の形骸化などが疑われます。

📖 詳細版:主要サービス(セコム/トヨクモ/ALSOK)の料金・機能比較、従業員規模別の推奨、5つの失敗事例、返信率90%を維持する運用法は企業の安否確認システム 選び方完全ガイドで専門的に解説しています。

3-4. 備蓄・BCP用品のチェックリスト

従業員1人×3日分が基本量です。

品目 1人あたりの量
飲料水 9L(1日3L)
食料 9食(非常食・アルファ米・レトルト)
簡易トイレ 15回分(1日5回)
救急用品 包帯・消毒液・鎮痛剤・常備薬
照明 懐中電灯・ランタン・予備電池
情報収集 携帯ラジオ・モバイルバッテリー
防寒 毛布・アルミブランケット
衛生 マスク・ウェットティッシュ・歯磨きシート

拠点の全従業員数 × 3日分で計算し、さらに来訪者・帰宅困難者用に全従業員数の10〜20%分を上乗せします。

備蓄は「買って終わり」ではなく、賞味期限管理が必須です。食料・水は年1回の棚卸しで期限切れ予定のものを社員向けに配布・試食するなど、ローリングストック方式を導入すると運用が楽になります。


第4章:帰宅困難者対策

首都直下地震や南海トラフ地震が発生した場合、都市部では公共交通機関が数日間停止すると予想されています。無理に徒歩帰宅を試みると、救助・消火活動の妨げになるだけでなく、二次災害(余震・火災・建物倒壊)に巻き込まれるリスクもあります。

原則は「発災後3日間は会社にとどまる」。そのための備蓄・休憩スペース・情報提供体制を整えることが、事業所の責務です。

東京都では2013年施行の帰宅困難者対策条例により、以下が事業者に求められています

  • 一斉帰宅の抑制(従業員を事業所にとどめる)
  • 従業員用の3日分備蓄(食料・水・毛布等)
  • 来訪者・顧客への対応(帰宅困難者の一時受け入れ)

大阪府・愛知県・福岡県なども同様のガイドラインを策定しており、大都市部に事業所を持つ企業は全て対象と考えるべきです。

駅前・商業施設・ターミナル周辺の事業所は、周辺の一時滞在施設(都道府県指定)との連携も重要です。自社従業員だけでなく、帰宅困難になった一般市民・来訪者を一時的に受け入れる協定を自治体と結んでいる事業所もあります。


第5章:訓練と見直し(運用編)

5-1. BCP訓練の種類と頻度

訓練は年間カレンダー化して組織的に実施します。

訓練種別 頻度 所要時間 内容
安否確認訓練 月1回 30分 システム配信・返信確認・未回答者フォロー
机上訓練 年2回 2時間 シナリオを基にした意思決定演習
総合訓練 年1回 半日 避難訓練と安否確認・初動対応を統合
合同訓練 年1回以上 半日 取引先・自治体・近隣事業所と連携

訓練の目的は「慣れる」ことと「改善点を見つける」ことです。訓練のたびに5〜10個の改善点をリストアップし、次回までに解消するサイクルを回します。

「完璧な訓練」は存在しません。小さな失敗を発見するほど、実災害時の被害が減ります。訓練後の振り返り会議で、責めず・隠さず・学ぶ文化を作ることが重要です。

📖 詳細版:震災・水害・停電の3シナリオ具体例、訓練設計書テンプレ、参加者の動かし方、振り返りフォーマット、成熟度評価チェックリストはBCP訓練の進め方で専門的に解説しています。

5-2. 見直しサイクル

BCPは一度作って終わりではなく、継続的に更新する必要があります。以下のタイミングで必ず見直します。

  • 年次見直し(毎年4月など定期)
  • 組織変更・人事異動時(責任者名の更新)
  • 拠点移転・新設時(リスクの再評価)
  • 規程改正・法令改正時(帰宅困難者条例改正、業界BCP義務化など)
  • 大規模災害発生時(近隣での災害があれば反省会)

見直しの最低ラインは年1回。経営層が内容に目を通し、承認するプロセスを経ることで、単なる総務文書から経営計画の一部に昇格します。


第6章:無料で使える雛形・テンプレ

6-1. 防災DBの拠点リスク自動埋込BCP雛形

防災DBでは、拠点住所を入力するだけで、その拠点固有のリスク数値が自動で埋め込まれたBCP雛形を無料でダウンロードできるツールを準備中です(近日公開予定)。

従来のBCPテンプレートは「地震リスク:◯◯」「想定浸水深:◯m」といった空欄を自分で調べて埋める必要がありましたが、防災DBの雛形では:

  • 震度6弱以上の30年発生確率
  • 浸水想定深・継続時間
  • 最寄り活断層・震源想定
  • 最寄り避難所(距離・徒歩時間)
  • 20パターンの地域特性に応じた推奨対策(発災前・警報時・発災時の3時間軸)

といった項目が拠点住所から自動生成されます。Word・PDF形式でダウンロード可能で、社内稟議用の雛形としてそのまま利用できる設計です。

最新情報は防災DBトップページをご覧ください。

6-2. 中小企業庁・自治体の参考テンプレ

公的機関が提供する無料テンプレートも併せて活用するとよいでしょう。

  • 中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」:基本コース・中級コース・上級コースの3段階で公開。事業継続力強化計画の申請書式もここから入手可能
  • 東京都「東京都BCP策定支援ツール」:Web上で項目を入力すると自社用BCP草案が生成される
  • 各都道府県・市区町村の防災計画テンプレート:業種別・規模別のサンプルが公開されていることがあります

公的テンプレと防災DBの拠点データを組み合わせると、「公的書式 × 自社実データ」というもっとも実用的な企業防災計画が出来上がります。

📖 詳細版:事業継続力強化計画(中小企業庁の認定制度)の申請書項目別記入例・税制優遇20%特別償却・低利融資の活用は事業継続力強化計画 完全申請ガイドで専門的に解説しています。


第7章:よくある質問

Q1. BCPはコンサルに依頼しないと作れませんか?

中小企業であれば、総務担当者1人で十分策定可能です。中小企業庁の「BCP策定運用指針」の基本コースを使えば、2〜3週間で初版を作れます。防災DBの拠点リスク診断を併用すれば、データ収集の手間も大幅に減ります。

Q2. 中小企業でもBCP認証は取得できますか?

ISO22301の認証取得は中小企業にはハードルが高いですが、中小企業庁の事業継続力強化計画の認定なら、書類審査のみで取得可能です。申請から認定まで概ね45日程度が一般的とされています。

Q3. 事業継続力強化計画の認定を受けるとどんなメリットがありますか?

日本政策金融公庫の低利融資・信用保証の特例・補助金加点・税制優遇(防災・減災投資に対する特別償却)などが受けられます。自治体によっては独自の優遇措置もあります。申請書は中小企業庁の指定フォーマット(A4数枚)で、認定事業者の多くは中小企業です。

Q4. 感染症BCPやサイバー攻撃BCPとの違いは?

本記事は自然災害に対するBCPを中心に扱っています。感染症BCP・サイバー攻撃BCPはそれぞれ別の専門性が必要な領域なので、別記事で詳しく解説します。ただし、基本構造(優先業務の特定・対応手順書・訓練・見直し)は共通です。

Q5. 外部倉庫や取引先のリスクも評価できますか?

はい、防災DBのMCPサーバーが提供する compare_locations ツールで複数拠点を一括評価できます。自社のサプライチェーン上の重要拠点(原料供給元・製造委託先・物流倉庫など)を入力し、サプライチェーン全体の災害リスクマップを可視化することが可能です。

Q6. BCP策定は何人で行うのがよいですか?

中小企業(従業員50〜300人)なら、総務1〜2名 + 各部署のキーパーソン3〜5名の計5〜7名が目安です。人数が多すぎると意思決定が遅れ、少なすぎると現場感が反映されません。経営層のスポンサーを必ず1名置くことが成功の鍵です。

Q7. BCPの作成には何ヶ月かかりますか?

初版なら2〜3週間、まともに機能するレベルにするなら3〜6ヶ月が目安です。ただし完璧を目指すより、まず書き上げて運用を始めることが重要です。年次見直しを繰り返すうちに、自社の実態に合った計画に熟成していきます。


まとめ:企業防災は「継続する仕組み」で完成する

企業防災は、一度作って終わりの書類ではなく、継続的に運用・改善する仕組みです。

本記事の要点を再掲します。

  1. 基礎:BCP・防災計画・事業継続力強化計画は対立ではなく階層的に重なる。中小企業は事業継続力強化計画から入るのが現実的
  2. 診断防災DBで拠点のリスクを数値で把握する。机上の一般論ではなく、実データに基づく計画を作る
  3. 策定:4ステップ(診断→シナリオ→優先業務→手順書)で体系化。コア業務は3〜5個に絞る
  4. 運用:月1回の安否確認訓練、年1回以上の総合訓練、年次見直しのサイクルを回す
  5. 更新:人事異動・拠点移転・法令改正時には必ず見直す

完璧を目指すより、まずは初版を作って運用を始めましょう。防災DBは登録不要・完全無料・全機能開放で、総務担当者の味方です。API・MCPサーバーも無料公開しているので、社内システムへの組み込みもご自由にどうぞ。

→ 今すぐ拠点リスクを診断する(3分・無料)


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本ピラーガイドから、以下の専門記事で各テーマを深堀りできます。

制度・申請
- 事業継続力強化計画 完全申請ガイド — 中小企業庁認定制度の申請書記入例・税制優遇・低利融資

運用
- 企業の安否確認システム 選び方完全ガイド — セコム/トヨクモ/ALSOK比較・返信率90%運用
- BCP訓練の進め方 — 机上・総合訓練のシナリオ例・振り返りフォーマット

災害種別
- 地震に備える企業防災 — 耐震化・地震保険・発災72時間対応
- 水害・洪水・台風に備える企業防災 — 浸水深別避難判断・止水板・警戒レベル対応
- 津波に備える企業防災 — 到達時間計算・鉛直/水平避難・沿岸企業事例
- 停電に備える企業防災 — UPS/非常用発電機・72時間電源計算・業務縮退計画


データ出典:全国地震動予測地図(防災科学技術研究所 J-SHIS)、国土数値情報(国土交通省)、災害事例データベース(防災科学技術研究所 DIL)、自然災害伝承碑(国土地理院)、中小企業庁「BCP策定運用指針」、東京都帰宅困難者対策条例、気象庁統計情報。各データソースの詳細はデータソース一覧をご覧ください。