台風15号(2019年)で千葉県の93万戸が停電し、一部地域では復旧に2週間を要しました。北海道胆振東部地震(2018年)ではブラックアウトで北海道全域が停電、冬季の需給逼迫警報(2022年)では節電要請が発令され、停電の現実味は増しています。
停電は、地震・台風のような直接的な災害だけでなく、設備事故・電力需給逼迫でも発生します。業務停止リスクとしては見過ごされがちですが、サーバー停止・冷蔵/冷凍庫停止・エレベーター停止・通信不通など、現代オフィスの事業継続を一瞬で破壊する力を持ちます。
本記事は、停電に特化した企業防災の実務を中小企業の総務・情報システム担当者向けに解説する専門ガイドです。Tier 1(企業防災の完全ガイド)では触れなかった電源確保手段・72時間電源計算・業務縮退計画を、防災DBの実データと合わせて詳しく掘り下げます。
この記事でわかること
- 停電の4種類の原因(地震・台風・設備事故・需給逼迫)と発生頻度
- 電源確保3段階(UPS・非常用発電機・ソーラー/蓄電池)の使い分け
- 消防庁推奨の72時間電源計算(具体的な計算式)
- 業務縮退計画の作り方(何を維持し、何を止めるか)
- 防災DBで拠点の停電リスクを見積もる方法
第1章:停電の4つの原因
1-1. 地震による停電
大地震で送電線・変電所が被害を受け、広域停電が発生します。
- 東日本大震災(2011年):約466万戸、完全復旧まで3ヶ月
- 熊本地震(2016年):約48万戸、復旧に1〜2日
- 北海道胆振東部地震(2018年):北海道全域ブラックアウト、完全復旧まで2日
地震の揺れ自体より、電力需給バランス崩壊によるブラックアウトの方が広域化しやすい点が特徴です。
1-2. 台風・水害による停電
強風・倒木・塩害・浸水により、送電設備が被害を受けます。
- 台風15号(2019年):千葉県約93万戸、一部復旧2週間
- 台風19号(2019年):東日本約52万戸
- 令和2年7月豪雨(2020年):九州約43万戸
台風による停電は、山間部や離島で特に長期化する傾向があります。倒木による送電線寸断が復旧を阻む主な要因です。
1-3. 設備事故による停電
変電所の火災、送電線の落雷、動物の接触などの単発的な事故による停電。規模は限定的だが、予告なく発生。
- 首都圏を襲う大規模停電は数年に1回程度
- 工場内では自家変電設備の故障による停電が発生しうる
1-4. 電力需給逼迫による節電要請・計画停電
猛暑・厳寒・発電所トラブルで電力需給が逼迫した際の節電要請・計画停電。
- 2011年東日本大震災後:計画停電(東京電力管内、延べ10日間)
- 2022年3月:需給逼迫警報(東日本、初の発令)
- 2022年6月〜:電力需給逼迫注意報(各地で運用開始)
需給逼迫は予告があるケースが多いため、事前対応の計画が立てやすい停電リスクです。
第2章:電源確保3段階の使い分け
2-1. 第1段階:UPS(無停電電源装置)
瞬断〜数分〜30分程度の短時間停電対応。サーバー・ルーター・重要PCを保護。
- 価格:500VA〜10kVA機種で2〜50万円
- 稼働時間:5分〜30分(機種とバッテリー容量による)
- 用途:サーバーの安全なシャットダウンを実行する時間を稼ぐ
- 選定:Web/DB/メールサーバーの最低限の稼働を維持できる容量
UPSは起動が瞬時で瞬断にも対応できるため、サーバー・ネットワーク機器には必須です。
2-2. 第2段階:非常用発電機
数時間〜数日の長期停電対応。オフィス全体または重要設備への電力供給。
- 価格:5kVA級で50〜150万円、100kVA級で300〜1,000万円
- 燃料:ガソリン(小型)、軽油(中〜大型)、LPガス(長時間運転向け)、都市ガス
- 稼働時間:燃料ストック次第。LPガスなら72時間以上連続運転可能
- 起動時間:3〜10分(UPSと組み合わせて瞬時対応を実現)
2-3. 第3段階:ソーラー/蓄電池
完全自立電源として、または補助電源として。
- 価格:事業用蓄電池(30kWh)で500〜800万円、ソーラーパネル(20kW)で400〜600万円
- 用途:数日〜数週間の長期停電でも最低限の業務継続が可能
- メリット:燃料不要、環境にやさしい
- デメリット:初期投資高額、天候依存(ソーラー)
2-4. 設備構成の例
中小企業規模の典型例:
| 規模 | UPS | 非常用発電機 | 蓄電池 |
|---|---|---|---|
| 従業員50名以下 | 5kVA(2台) | 検討要 | 不要 |
| 50〜300名 | 10kVA+分散型 | 30〜50kVA | 検討可 |
| 300〜1,000名 | 30kVA+分散型 | 100kVA以上 | 推奨 |
第3章:消防庁推奨の72時間電源計算
3-1. なぜ72時間か
総務省消防庁は、「人命救助の観点から72時間を非常用電源で稼働可能にすることが望ましい」と規定しています。大規模災害時、公的復旧(救助・医療)のゴールデンタイムが72時間(3日)であり、その間は企業も自立して業務継続できる体制が求められます。
3-2. 72時間稼働の電源計算(計算例)
例:従業員100名のオフィスで最低限の業務を維持する場合
必要電力(最低限の業務継続):
| 機器 | 台数 | 消費電力 | 合計 |
|---|---|---|---|
| サーバー | 2台 | 500W | 1,000W |
| ルーター・スイッチ | 一式 | 200W | 200W |
| 重要PC(管理層・経理) | 10台 | 100W | 1,000W |
| 照明(LED) | オフィス50% | 500W | 500W |
| 空調(ミニマム) | 1台 | 1,500W | 1,500W |
| 冷蔵庫・給湯 | — | 500W | 500W |
| 合計 | — | — | 4,700W(約5kW) |
72時間 × 5kW = 360kWh の電力量が必要
これを満たすには:
- LPガス発電機(50kg×2本で約200時間稼働):5kVA機 + LPガス燃料で72時間以上可能
- 軽油発電機+燃料タンク(500L):20kVA機 + 500Lで約50時間(補給で延長)
- ソーラー+蓄電池:20kW+40kWh電池で、条件次第で72時間継続
3-3. 燃料確保の注意点
燃料は事前備蓄が必須です。災害時にはガソリンスタンドも停電・被害を受けるため、発災後の燃料調達はほぼ不可能と考えます。
- ガソリン:家庭用20Lまでの備蓄(消防法の制限)
- 軽油:敷地内タンクで500〜2,000L(危険物倉庫の届出必要)
- LPガス:50kgボンベで2〜10本(常設可能)
第4章:業務縮退計画の作り方
停電時、すべての業務を通常通り維持することは不可能です。何を維持し、何を止めるかを事前に決めます。
4-1. 業務の分類(3段階)
- 最優先維持(A):停電中も必ず維持する業務(例:サーバー稼働、顧客コミュニケーション、発注処理)
- 中優先(B):停電復旧後すぐ再開する業務(例:経理処理、営業活動)
- 停止容認(C):停電中は停止してよい業務(例:社内会議、採用活動、設備投資検討)
4-2. 電源優先度マップの作成
フロアマップに、どのコンセント・機器に非常用電源を供給するかを色分けします。
- 赤:UPS+非常用発電機(瞬断NG、長時間維持)
- 黄:非常用発電機のみ(瞬断OK、長時間維持)
- 緑:通常電源のみ(停電時は停止)
この色分けを電気系統図に反映しておくと、停電時の判断が不要になります。
4-3. 停電時のコミュニケーション
停電で社内チャットが使えなくなる場合:
- 全員がスマホにモバイルバッテリーを携行
- 緊急連絡用のLINE グループ(スマホ回線で動作)
- 公衆電話・衛星電話の利用
- 掲示板・拡声器での情報伝達
第5章:防災DBで停電リスクの高い地域を特定
停電リスクは、地震と台風の発生確率に大きく左右されます。防災DBを使って、停電リスクの大きい拠点を事前に把握できます。
5-1. 地震起因の停電リスク
震度6弱以上の30年発生確率が高い地域は、地震起因の停電リスクも高いと推定できます。防災DBの都道府県別地震確率ランキング(地震に備える企業防災記事に掲載)で上位の高知・静岡・徳島・千葉・愛知の各県は、全域規模のブラックアウトに備える必要があります。
5-2. 台風起因の停電リスク
台風被害の大きい地域(九州・四国・関東沿岸)は、送電設備被害による停電リスクが高い地域です。特に:
- 海岸沿いの拠点:塩害による送電線被害
- 山間部の拠点:倒木による送電線寸断
- 離島・半島:復旧時間が長期化
5-3. 需給逼迫リスク
電力需給逼迫は全国的に発生するため、地域差は小さいですが、以下の条件で特に注意:
- 大消費地(東京電力・関西電力管内の大都市)
- 気温の両極化が大きい地域(猛暑・厳寒)
- エネルギー多消費業態(データセンター、工場、冷蔵物流)
5-4. 自社拠点のリスクを数値化
防災DBで各拠点の以下を確認します:
- 震度6弱以上の30年発生確率
- 台風接近頻度(気候プロファイル)
- 周辺の送電線・変電所の位置(地図)
リスクが高い拠点には、UPSだけでなく非常用発電機・蓄電池を優先投資します。
第6章:停電BCPの訓練
6-1. 年1回の停電訓練
BCP訓練の進め方で紹介した停電シナリオの訓練を年1回実施します。
- 計画停電(夏場の需給逼迫時などを模擬)
- UPSバッテリー残量の実測
- 非常用発電機の起動試験
- サーバーのシャットダウン〜再起動
6-2. 非常用発電機の定期点検
月1回の無負荷試運転、年1回の負荷試験が一般的です。これを怠ると、いざというとき起動しません。
6-3. UPSのバッテリー交換
UPS内蔵バッテリーは3〜5年で劣化します。劣化したバッテリーは、表示上「満充電」でも実際には数分ももたないケースが珍しくありません。3年ごとの全数交換を予算化します。
まとめ:停電対策は「段階的自立」で設計する
停電BCPは、UPS(秒〜分)→非常用発電機(時間〜日)→ソーラー/蓄電池(日〜週)の段階的自立で設計します。
本記事のポイント:
- 停電原因は地震・台風・設備事故・需給逼迫の4種類。近年は需給逼迫も現実的なリスク
- 電源確保はUPS(瞬時対応)+非常用発電機(長時間)の組合せが基本
- 消防庁推奨の72時間稼働を目標に、電力量を計算して設備選定
- 業務をA/B/Cの3段階に分類し、電源優先度マップをフロアに反映
- 防災DBで地震確率・台風頻度から拠点の停電リスクを推定
- UPSバッテリー交換・発電機試運転など定期点検を怠らない
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- BCP訓練の進め方 — 停電シナリオの訓練台本
データ出典:総務省消防庁「非常用電源設備の確保に関する指針」、経済産業省「電力需給逼迫警報・注意報の運用」、各電力会社公表の停電統計、消防法関連(危険物施設の設置基準)、全国地震動予測地図(防災科学技術研究所 J-SHIS)。防災DBの基盤データ詳細はデータソース一覧をご覧ください。