2024年1月1日の令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)で観測された大津波の主要因として、能登半島北東沖の海底に幅約2.5〜3.8km・長さ約30kmにわたる「大規模変形帯(Large Deformation Zone, LDZ)」が新たに確認された——東京大学大気海洋研究所の朴進午(パク・ジンオ)准教授らの研究グループが2026年5月11日に発表した。論文は科学誌『Scientific Reports』に掲載された。

防災DBは石川県の地震リスク津波リスクの集約データを公開しており、この研究成果は能登半島沿岸の津波想定の再評価にも関係する重要な発見である。本記事では一次情報を整理し、防災DB内の関連データと併せて紹介する。

この記事の要点

  • 令和6年能登半島地震(2024年1月1日 16:10頃、M7.6)の津波は、海底の幅2.5〜3.8km × 長さ30kmの「大規模変形帯(LDZ)」に関連する断層が6〜7m程度すべることで最もよく再現できることが判明
  • 学術研究船「白鳳丸」による2024年3月の緊急調査と、高分解能地震波探査によって構造を特定
  • すべり量は先行研究より大きい値で、大規模変形帯の存在が津波発生に大きく寄与した可能性を示す
  • 同様の構造は日本海側の他地域にも存在する可能性があり、全国的な津波防災対策の高度化につながる
  • 共著機関: 東京大学・海洋研究開発機構(JAMSTEC)・中央大学。論文DOI: 10.1038/s41598-026-48075-4

1. 令和6年能登半島地震とは

令和6年能登半島地震は、2024年1月1日 16時10分頃、石川県能登地方の深さ16kmで発生したマグニチュード7.6の地震である。発震機構は北西―南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型で、震源断層は能登半島北西部から北東沖にかけて延びる長さ約150kmの構造と考えられている。

石川県輪島港では1.2m以上の津波が観測されたほか、能登半島先端の飯田湾では3mを超える津波が来襲し、珠洲市・能登町などの沿岸部に甚大な被害をもたらした。津波の局所的な増幅メカニズムについては、震源近接・海底地形・湾内での反射重畳など複数の要因が指摘されてきたが、津波を発生させた断層の実態については、震源断層を構成する多数の海底活断層のうちどれが津波発生に主に寄与したのかが特定されていなかった

防災DBでは石川県の主要被災市町について、以下のリスクデータを公開している:


2. 「大規模変形帯(LDZ)」とは何か

朴准教授らの研究グループが発見したのは、能登半島北東沖の海底に存在するLarge Deformation Zone(LDZ、大規模変形帯)と呼ぶ大きな変形構造である。プレスリリースによれば、この変形帯は以下の特徴を持つ:

項目 値・特徴
約2.5〜3.8km
長さ 約30km
走向(分布方向) 北東―南西方向
主要構造 急な傾きを持つ逆断層
付随構造 周囲に広がる複雑な断層群

重要なのは、これが「単独の断層」ではなく、逆断層を主軸として周辺に多数の枝断層が複雑に絡む“帯状の変形領域”として捉えられている点である。研究グループによれば、地震前後の比較で確認された海底の隆起域とも分布が一致しており、令和6年能登半島地震の活動と密接に関係していると考えられる。


3. どうやって発見したか — 白鳳丸による緊急海底調査

研究グループは地震発生から2ヶ月後の2024年3月、東京大学大気海洋研究所が運用する学術研究船「白鳳丸」による緊急調査を実施し、能登半島北東沖で高分解能の地震波探査を行った。

地震波探査は、海面付近から人工的に地震波(音波)を発生させ、海底下の地層構造からの反射波を解析することで、海底下数km〜十数kmの地質構造を高い解像度で可視化する手法である。今回の調査は、震源直上の海底活断層群を直接観測する世界的にも稀な学術的試みであった。

調査で得られたデータを解析した結果、震源域に従来知られていなかった大規模変形帯が存在することが明らかになった。


4. 数値シミュレーションでの再現結果 — すべり量6〜7m

研究グループはさらに、発見された大規模変形帯を組み込んだ津波の数値シミュレーションを実施した。

シミュレーションの結果、大規模変形帯に関連する断層が6〜7m程度すべることを仮定すると、令和6年能登半島地震で実際に観測された津波の高さを最もよく再現できることが分かった。これは先行研究で想定されていたすべり量よりも大きい値であり、震源断層のうち大規模変形帯の存在が津波発生に決定的に影響した可能性を示している。

すなわち、津波の規模を決めた主要因は単純な断層長や地震規模だけでなく、海底のどこに、どのような構造のすべり面があるかであり、海底活断層の精密な構造解明が津波予測の精度向上に直結することを示す重要な事例となった。


5. 全国の津波防災への示唆

研究グループは、こうした「大規模変形帯」の構造は日本海側の他の地域にも存在する可能性があると指摘している。日本海側は太平洋側に比べて海底活断層の調査・解明が遅れている地域も多く、今回の手法は他海域での津波想定の精緻化にも応用できる可能性がある。

朴准教授らは今後の展望として、

  1. 断層の力学的な性質の解明
  2. 地下流体との関係の解析
  3. 過去の活動履歴の調査

を挙げており、これらを通じて地震・津波の発生メカニズム理解がさらに進むと期待される。本研究は、

  • 科研費・基盤研究(S)「令和6年能登半島地震(M7.6)で津波を引き起こした海底活断層の実態解明
  • 文部科学省「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第3次)

の支援を受けて実施された。


6. 防災DB内の関連データ

本研究を踏まえて、能登半島地震の被災地域・日本海側沿岸エリアの災害リスクデータを確認したい方は、以下の防災DBの集約ページが役立つ。

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7. 一次ソース・引用元

  • プレスリリース: 東京大学大気海洋研究所「能登半島沖で津波の原因となる大規模構造を発見―令和6年能登半島地震(M7.6)の痕跡の可能性―」(2026年5月11日発表)
  • https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2026/20260511-2.html
  • 論文: Scientific Reports, 朴進午ほか, 2026年
  • DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-026-48075-4
  • 研究機関: 東京大学大気海洋研究所、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、中央大学
  • 研究船: 学術研究船「白鳳丸」(東京大学大気海洋研究所運用)
  • 支援: 科研費・基盤研究(S)、文部科学省「地震火山観測研究計画(第3次)」

学術論文・プレスリリースの権利は各発行機関に帰属する。本記事は研究内容を防災データ利用者向けに紹介・要約したものであり、内容の正確性については一次ソースの最新情報を必ず併用してご確認いただきたい。